螢惑は芥子に眠る | ナノ
修行中なんで
涼しい顔でとんでもない事を言った満。趣味と言ったクセに真似が出来るとは異常だと2人は目線を交わした。
「趣味でやってんのに真似出来るって俺にケンカ売ってんの?」
「ケンカなんて、そんな事なりませんよ。勝てる筈がありません。」
伊武達に、万が一でも勝ち目は無い。敢えて相手がいいように受け取る事を白々しく言うのだから、質が悪い。
「そりゃ当たり前だ。毎日練習してる俺らが女の子に負けるかよ。」
「でもやっぱりムカつく。あっさり言ってくれるし明らかに武器にしてんだろこいつ。」
「…困りましたね。私が出来る事を出来ると言って、逆上されましても事実は変わりませんし。」
神尾よりも速く駆け抜ける足、女子テニス部ならばあっという間にレギュラーとなれるだけの反射。
廃れゆく技を受け継いだ死神は、ひけらかしたくないのだ。
油断を誘わずとも、その気になればどうとでもなるが立海の評判に関わる。
「ズケズケ言ってくれるよな。同い年らしいけど橘さん見ながら笑ってられる神経もおかしいし。」
「あんなラフプレイ、よく笑ってられるとは俺も思う。」
「その橘さんの腕が返せない程度、とは思わないようですね。」
満とて、本気にならなければ返せない。橘はわざとフォームを変えているように見えたのだから、満には奇異にしか映らないのだ。
そこまで勝利に固執しながら、本気を出さないと負ける相手に手を抜くなど流血の鉄則とは相容れない。
「アンタテニス出来るんだよな?格の違いを教えてやるよ。」
「その必要はありません。…見えましたか?」
宣言してから体を低くした満が、一瞬にして神尾の背後に立っていたのだ。伊武も目を見開いている。
「…神尾より速いかも。」
首を傾げ、小さく微笑む満はやりすぎたか?と内心困惑している。
万年筆のまの字も出していないが、ほんの少し本気で走っただけでも驚異的な速さだ。
「だから、ケンカなんて勝てないのです。私が先に逃げますから。」
事を出来るだけ荒立てないよう、非暴力主義と思わせたい。ランニングと手合わせを重ねた満は、各段にスタミナをつけているのだから。
「アンタさぁ、さっきから余裕出しすぎだけど状況分かってんの?力で勝とうなんて思っても無さそうな割に神尾から逃げるなんて無理に決まってるだろ。」
「出来ない事と決めつけては、勝てる勝負も負けますよ?」
冷ややかな伊武と、穏やかな満の視線が交錯する。切り札は温存しているのだ。王者立海を震撼させる、日本一危険な後輩。
喧嘩腰の伊武に万年筆が光らない保証は無い。
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