螢惑は芥子に眠る | ナノ
緋色の風
確かに、彼氏が活躍して喜ばない恋人はそう多くは無いだろう。額縁通りに受け取れば、満が上機嫌な理由もまともだ。
「あんなプレイでも、アンタ平気なワケ?」
「はい。私は赤也の、あの負けず嫌いなプレイがとても好きです。」
晴れやかな笑みは、悪意を持ちにくい。だが言っている事が問題だ。
「自分はやられないから、なんて高みの見物?だとしたら相当性格悪いよな。切原もだけどよく平然とやってられる。」
「あら、伊武君も逆回転サーブをしていらっしゃいましたよね。間違えれば相手に当たるでしょう。違いますか?」
玄人の観察眼を甘く見てはいけない。2人は柳と真田の前に為す術もなく屈したが、柳の代理を任される程研ぎ澄まされた目はきちんと相手を見るのだ。
「…アンタ、何者だ?」
「立海の救護要員です。お2人のプレイは少々チェックを入れましたが、本来は柳先輩に頼まれまして真田先輩達の気になった事を観察していました。」
「ただの救護要員が?素人が王者立海の気になった事を観察?無理だろ普通に応援してただけだろ。」
瞬時に神尾の顔つきが変わった。逆回転と言い切った満にテニスの心得があると理解したのだ。
達人と呼ばれる柳から頼まれる程、優れた目を持つとも。
「深司、こいつ普通じゃなさそうだ。下手したらとんでもねぇ化け物かも。」
「化け物とは初対面にもかかわらず失礼ですね。練習無しで強くなれる世界ではありません。」
満の言い分はもっともな話だ。見た目はただの女子中学生を、化け物呼ばわりする事も練習無しで強くなれるような事でもない。
ただ、練習内容が洒落にならないだけで。
「そりゃそうだけどアンタテニス出来んの?」
「嗜み程度には。」
「嗜み?」
「本気ではしていません。趣味と言い換えます。」
首を傾げた神尾に、苦笑して訂正する。
学年首席であり、柳や真田と当たり前のように話しているから使ってしまったのだ。それに、嗜み程度と言い切るのは立海レギュラーとまともに試合をして勝てないと知っているからだ。
「それならなおさら話がおかしいじゃん。立海の救護要員でテニスをちょっとやってるような女が、何でキックサーブを危ないって言えるわけ?」
「こればかりは経験、としか言えないのですが。キックサーブと呼ぶのですね。赤也のナックルサーブはランダムですが、回転と力によってバウンドの高さが変わるように見えました。模倣は可能です。」
さらりととんでもない事を言ってのけるが、満の身体能力は非常に高い。
知らない2人は、怪訝な顔で満を見た。
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