螢惑は芥子に眠る | ナノ
意見は間違ってない


試合終了。赤也は最短記録を塗り替え、嬉々として満に笑いかけた。

「満!何分だった?」

「残念でした、14分1秒よ。ワンゲーム落としたのがいけなかったわね。」

上機嫌の彼女だが、そこは幸村や真田に言われて厳しい。

「ちぇっ。ダウン行ってくるな。」

「行ってらっしゃーい。」

にこやかに見送られ、にやけが止まらない赤也。
久しぶりに上機嫌に笑う満を見られたのだ、ご褒美無しでも嬉しさを隠せない。だが、不動峰サイドは大騒ぎだった。あの橘が、ワンゲームしか取れなかった王者立海。
傷だらけの橘を嬉しげに見ていた少女。気にするなとは言えない。

「何なんだよあの女。人がボコボコになってんのに笑ってるとかおかしいだろ。周りも何も言って来ないし王者だからってさ。」

「だよな。俺あの切原が話しかけてた女ムカつく。どうせ切原のファンかなんかだろ。」

橘は念の為病院に行くのだが、付き添いは要らないと断言していた。だが、溜飲は下がらない。
満と立海に文句を言ってやろうと2人は歩き出した。

「真田先輩、ナックルサーブを返せる選手ならば全国区と見なしてもよろしいのでしょうか?」

「うむ、そうだな。数える程度だと断言しよう。赤城は不世出の名選手だろうな。」

「赤也相手では、本気を出さざるを得ません。本当は母から禁止されているのですよ?」

「だから赤城は恐ろしい。見ている限りではカウンターパンチャーだが、赤也に合わせているだろう。」

談笑をしている三強と満、その裏を知らなければあまりにも仲がいいように見える。

「そこのお前。ちょっと面貸せ。」

「…だ、そうですけど幸村先輩。どうしましょう?予想は出来ますが。」

「出来るだけ、穏便に。学校じゃないから。」

「はい。私も平和を願いますよ。では、参りましょうか。」

幸村は苦笑を浮かべ、満は穏やかに微笑んでいる。
真田は険しい顔だが、止めようが無い。柳も見送るだけに留めた。

「お前、切原の彼女?」

「はい。立海二年、赤城満と申します。」

事実は否定せず、あくまで丁寧に会釈する満に神尾は忘れてた、と言わんばかりにまくし立てた。

「あ、俺神尾アキラ。こっちが伊武深司。タメ。」

「神尾さぁ、何自己紹介なんかしちゃってんの?さっさと本題に入れよ。ボコボコにされた橘さん見ながら笑ってたんだぜ?」

「彼氏が活躍して、嬉しくない恋人はあまり居ないと思いますが。」

穏やかな笑みを浮かべたまま、満は静かに伏せるべき嗜好を隠している。
嘘ではないが、全ては言っていないのだ。

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