螢惑は芥子に眠る | ナノ
練習試合のようなもの
宣言した瞬間、満の暗い瞳に柳生は言葉を失った。体が震え、ラケットが手から落ちる音がいやに響く。
観客もまた満の異様さに腰が抜けたり、顔色が悪くなる者が続出していた。
「どうしました、柳生先輩。見たかったのでしょう?」
いつもとは全く違う雰囲気。淡々とした口調が、より恐怖を助長する。
「赤城!!止めろ!」
「満、止めろ!」
なけなしの勇気と面子を懸けた三強と、多少は慣れていると自負する赤也が同時に叫んだ。途端に、満から放たれる圧力が消える。
それでも、彼らは二の句を告げられなかった。不動峰との騒ぎで垣間見た筈なのに、と思う事さえ。満は苦笑して、赤也を見る。
「…大丈夫?」
「…かなり、ギリ。柳生先輩、モロに見ただろ。」
「先日の一件で多少耐性があるかなぁ、って甘かったかな。ギャラリーも危ないね。ごめんね。」
本当に申し訳無さそうに言うと、満はゆっくり柳生に近付く。とっさに逃げ腰になる柳生だが、動くに動けない。
満が手を握り、立ち上がらせると場の空気が和らいだ。
「すみません、柳生先輩。調子に乗って脅しすぎましたね。」
「いえ、私こそ我が儘を言ってしまいましたから、お互い様でしょう。」
声は震えるが、圧力の失せた満に危害を加える気が無い事はよく解る。
ジャッカルは微笑み合う2人を確認して、顔見知りを探した。三強も、同じく行動を開始する。幾ら信憑性が無い話でも、これだけ証人が居ては厄介でしか無い。
「ブンちゃん大丈夫かー?」
「あ、あぁ。…赤城ってマジ底が見えねぇな。あ、大石が倒れそう。」
「俺は不動峰の奴見つけたからフォローするぜよ。」
満に気圧された観客に気付き、何事かとまた学生達が集まりだしている。
試合は無効、事態の収拾に立海の全部員が動き出した。満と柳生と赤也は、別として。
「赤也、湿布取って?肩痛くなってきた。」
「へ?あ、うん。」
「赤城さん、肩を痛めていたのですか?」
「えぇ、パワーリストをつけたまま、ラケットを振り回しましたから。遠心力を使ってしまうので、負担がかかるのです。」
痛みに耐える事も、嫌でも身に付く家。だが我慢しなくてもいい時は遠慮などしないのだ。
「意外と、知っている方が見物していたようですね。赤城さん、改めてすみません。」
「いいえ、楽しかったですから。またの機会では学校でしましょう。」
「だな。満、最近自制が緩んでるって柳先輩言ってたぜ。」
それは危ない傾向だ。騒ぎも収まったので、帰りながら立海レギュラー達は対策会議をしていた。
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