螢惑は芥子に眠る | ナノ
もうすぐ夕方
静かにジャージを脱ぎ、ペットボトルを飲み干した満。体を解しながら、柳生と同じタイミングでネットごしに握手する。既に、2人は火花を散らしていた。
満の能力が桁違いで、未知数故に読めない柳生。王者立海である意味最も恐ろしい、と柳に言われる柳生を警戒する満。
「宜しくお願いします。」
「はい、こちらこそ精一杯お相手しますね。」
「んじゃ、柳生先輩からサーブッスよー。」
十円玉でサーブ権を取り、日も和らいだ事でコートは揉めずに済んだ。だが、立海のデータを欲しがる輩がギャラリーである。
そんな彼らは、息を呑んだ。
「まずは、この程度から調整しましょうか?」
「えぇ、私が赤城さんの本気を見るに足る証拠を見せます。」
笑みを浮かべる満が、何故か怖くて仕方ない。柳生もまた、獲物をなぶる獣を連想した。
解っては居たが、手加減などしたら満も手加減をしたまま負ける。幸村や真田と打ち合えるだけでも充分とんでもない能力だ。
「やぎゅーせんぱーい、コートチェンジッスよー?」
「…はい。」
「大丈夫ですか?水分補給は。」
「少し、してきますね。」
悪魔化した赤也すら凌駕する、圧倒的な速さ。パワーリストをしているとは思えない打球、あっさり真似をしてのける技量と、どれを取っても満は身体能力の持ち腐れだ。
凄まじい自制心で、一線を守り通す最強の切り札。
「…強すぎますよ、赤城さん。恐ろしい程に。」
「柳生でも、か。しかし…最近の赤城は自制が少し弱まっているぞ?」
いつの間にか、レギュラー全員が2人の試合を見ていた。先程、いざこざがあった比嘉中さえも何事かと見に来ている。
満の異能と、特殊な嗜好を知られては厄介。
それでも、柳生はラケットを手放さなかった。王者として、満をテニスに引き込んだ人間として、譲れない。
「赤城さん、柳生、危なくなったら問答無用で止める。それでもやる?」
「はい。いざとなったら総力で止めて下さいね。」
「えぇ、赤城さんには本気を出して頂きますから。幸村君、お願いしますよ。」
観客が手に汗握る試合、立海レギュラーが冷や汗と寒気すら覚える真夏の昼下がり。
今も満のとんでもない組み合わせ技に目が離せないのだ。
「…あの女子は、何…?」
「あ、佐伯久しぶり。立海の切原の彼女で、スゴい人だよ。…本当にね。」
大石が微笑むも、青学レギュラーをその名前だけで恐れさせる満の高い声が、コートに響いた。
「柳生先輩、お見せしますがこれから意図的に傷つけますよ。」
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