螢惑は芥子に眠る | ナノ
今あなたの後ろに


万年筆の立海生。果敢にも大の男を万年筆で撃退し、全国で取り沙汰された事は誰もが認める事実だ。
その伝説の張本人と、比嘉の面々は当たり前のように受け入れてしまっていた。

「普通の万年筆で?」

「はい。」

それ以外に無いだろ、とバカップルは思うが口には出さない。今も現役絶好調のお役立ち万年筆、満とその母以外は曲げてしまうのが関の山だ。

「…なぁ満、いつまで話すんだよ?」

「比嘉の皆さんが納得するまで、は冗談として。…いい加減戻らないと真田先輩に怒られそう。」

一旦顔を強ばらせた赤也、次に絶望的な表情を満に向けた。
満を本気で走らせて賭けをした挙げ句、長々と立ち話を他校の生徒としていました、などと真田に言える筈がない。主な要因が満であっても。

「早く戻ろ!?俺ヤダ帰りに延々と説教!!」

「私も嫌だけど…どうすれば納得して頂けます?木手さん。」

首を傾げ、明らかに困惑している満に見据えられた木手。メンバーも視線を木手に集めている。
どうすればと言われても、現状が把握しきれていないのだから大変だ。
満に何かを察知した知念と甲斐。その何かとは何だ?と聞いても無駄だと解りきっている。

「永四郎、走ったやっさーけあびた。やらせてみたら?」

「それは悪くないですね、平古場くん。彼は走っただけだと赤城さんが言ったのだから、やらせてみたらと言っていますが。」

「論より証拠、ですか。」

あまり見せびらかしたくはないが、やってしまった上にバカにしたので拒否しにくい。
バカップル同士、アイコンタクトで赤也は満のペットボトルを持った。満は一応格好は、と片足を下げる。いつでも走れるとアピールする為だ。

「合図をお願いします。」

「解ったさー、やれ。」

尊大に田仁志が言った瞬間満は駆け出した。見えない速さで。

「あの…すみません、こちらです。」

「うぉわっ!?や、やー、ぬーしちゃ!?」

比嘉メンバーが満を見失った事に困惑していたが、声に振り向くと苦笑気味の満が立っていた。
甲斐がまるで幽霊でも見たかのような反応だが、至って正常である。

「…走った、やっさーけ?」

「ですね。…縮地法ではないようですが。」

「あの…もう、帰っていいですか?」

赤也が怒られるから、と満は自分を棚に上げているが本当に満は怒られにくいのである。根に持たれると怖いから、とは知られていない。バカップルでさえいれば優等生なのだ。

「帰ろうぜ満!」

未だ混乱した比嘉を見捨て赤也は満と戻るべく歩き出した。
…比嘉が我に返って大騒ぎしても、話が通じる人は少ない。

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