螢惑は芥子に眠る | ナノ
自己紹介は大切


満の冷ややかな笑みに、甲斐が何かを察したか一歩後退り表情を堅くした。知念も顔が強ばっている。

「ん?ちゃーさびたか?」

「くぬいなぐ、ぬーがらうかーさい。」

「何度もすみませんが、聞き取れないです。」

満もくどいと自覚しながらも、解らないものは解らないとしか言えない。木手が軽く溜め息を吐いた。
満達とコミュニケーションを取るにも、いちいち訳さなければならないのだ、手間がかかって仕方ない。

「田仁志クンはどうした?と聞いて、甲斐クンはあなたが、何かおかしいと伝えたのです。」

「ご丁寧に有難う御座います。そちらの方が田仁志さん、そちらが甲斐さんですね。」

そう言えば名乗られたが、こちらは名乗っていなかった事に気付いた比嘉メンバー。
見た目こそ華やかだから間違われないが、名指しされなければそれはそれで腹が立つ。

「なぁ満、比嘉の名前なんか覚えてどうすんの?」

「あら、コミュニケーションの第一歩じゃない。」

暗に、満は名乗りもしない比嘉をバカにしている。馴れ合いではなく、社交辞令すらままならないのかと。木手が眉間にシワを寄せるが、満の言い分は正しい。甲斐はマイペースだが、勘がいい所もある。
とりあえず各人の名前を紹介し、満もまた赤也共々名乗り直した。…赤也は呆れ気味だが満に手を出しかけた比嘉にいい印象は無い。

「で、話を戻しますが。私が何かおかしいとはどういった意味ですか?」

「満、比嘉の奴らお前の事全っ然知らなさそうじゃんか…。万年筆の中学生で通じるか?後ある意味おかしいだろ。」

「もう流行過ぎたからどうかなぁ。どういう意味でおかしいかが重要なの。」

一般的とは程遠い、実戦向けの心得を持ち、立海ジャージを着ている女子生徒と言うだけでも満は充分おかしいのだ。

「万年筆の中学生?」

「新垣クン、去年に万年筆でストーカーを撃退したニュースですよ。」

「あぁ!あぬでっちょ万年筆!」

「…だから解らないと何回申し上げればご理解頂けますか。」

「ダサい万年筆って平古場が言ったんやっさー。」

不知火の解説に赤也が固まった。まさか満愛用の、色々な意味で年季の入った万年筆を指しているとすれば侮辱だ。
護身用と大々的に販売されたものであれば、満は無関係である。

「売ってた奴、か?」

「赤城さん、でしたか。あなたの使った万年筆とは違うのですか?」

「当然ながら違います。」

満は何の変哲もない、贈り物であった万年筆を駆使した。内訳は2人とも、絶対に話さない。

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