螢惑は芥子に眠る | ナノ
現在地全国大会競技場
ゼロコンマ何秒、と言う視認出来ても実行はまず不可能な速さで、つかみ上げかねない田仁志の大きな手から満は軽く後ろに下がって避けた。人通りも人目もありすぎる以上、満の万年筆は光らない。
「赤也、私のドリンク返して頂戴。」
「はい残り。」
何事も無かったかのように赤也は満にペットボトルを渡し、比嘉を冷ややかに見た。今のが満の本気と思うなよ、と赤也は言いたいところだが、これ以上騒ぎが起きると真田の鉄拳や柳と満の説教が待っている。
「…なま、じゅんにぬーしちゃ?」
「は?」
次は平古場に、赤也が反応した。本当に何を話しているのか解らない。
沖縄独特の訛りは、関東では聞き慣れないのだ。
「多分、今何した?とかお前本当に人間か?とかそんな事でしょ。言われ慣れてるから気にしない。訛りって奥が深いわね。」
「あー、うん。満マジ人間?は言ったもんな。反省してますごめんなさい。」
ドリンクを頬に当て、冷たさを楽しむ満が事も無げに言うと、バカップルはまたいちゃいちゃし始めた。立海のレギュラーならば見慣れた光景だが、いい加減にしろと言いたくもなる。
「何をした、と聞いたのは正解ですが…キミ達は何者ですか?」
「立海のレギュラー、切原赤也とその彼女である立海救護要員、赤城満です。私はただ避けただけですが、何か?」
ジャージを見れば、2人が立海の生徒である事はすぐ解る。ただ避けただけ、と言うのが比嘉の面々には納得できず癪に障るのだ。
比嘉の間をすり抜け、田仁志の手を避けた事実は変わらなくとも。
「信じられねーらん。」
「信じなくても構いませんけれど。」
身も蓋もない満だが、単なるお遊びとして赤也と賭をしたのだ。負けてしまった以上、現在の比嘉レギュラーと立海レギュラーが対戦する事は、この大会以外無い。
敗者を嘲笑いはしないが非常に厳しい立海、相手にすらならない現実だ。満は選手では無いし、女子なので公式試合は出来ても男女混合ダブルスのみ。
「満、ケンカ売るなよ?」
「赤也と違ってならないと思うけど。」
「…ケンカになんねえな、確かに。」
殴り合いどころか、満がスプラッタを撒き散らすだけである。加えて、比嘉レギュラーは満が何なのか、自分達に比べてどれほど優れているのか全く解っていないのだ。
「だぁや聞き捨てならねーらん!」
田仁志の声に、満は冷ややかな笑みを送った。赤也が内心、合掌を送りたくなる啖呵だ。
その間に三年に携帯で助けを求める発想は、無いようである。
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