螢惑は芥子に眠る | ナノ
禍々しい笑み
県大会をあっさり通過し、関東大会も順調に駒を進めた立海。
不動峰戦で、九州二翼と謳われる橘と当たる赤也は、最強最悪の化け物にして最愛の彼女である満におねだりをしていた。
「な、満!13分台で勝ったらご褒美!」
「えー?赤目にならないのに?」
論点はそこか。と言いたくなるが触らぬ神に祟り無しだ。
「…赤城さん。一応赤也の対戦相手は全国区だから、なると思うよ。」
「そうなんですか。じゃあ約束ね。負けたら一週間話さないわよ。」
「ありえねー。俺あんなんに負けねーって。」
試合前にもかかわらずバカップル全開である。
幸村はまだ全快とは言えないので、関東大会も観戦のみだ。監視にならない監視も兼ねている。
特に、満を詳しく知らない幸せな人から逃がす為だ。
「柳生先輩と丸井先輩のペアはストレート勝ち、柳先輩と真田先輩なら間違い無いでしょうね。」
「そうだね。みんな動きが悪いにも程があるけど、ジャッカルまで行かないだろうな。」
「有り得ないッス!俺が勝って終わりッスよ!」
緊張感など欠片も見当たらない、王者の余裕と貫禄。満は柳に頼まれて、立海レギュラーの気になった動きをメモしているが、基準は満本人と言う規格外だ。
「赤也、試合だ。」
「うぃーっす。満、ちゃんと見とけよ!?」
「はいはい。毎回言わなくても見てるわよ。」
立海では日常茶飯事と化した、流血カップルのやり取りだが。真面目に関東大会を勝とうと努力している人々に、いいイメージは持たれない。
「…妙だわ。わざとフォームを変えてる?」
「そんな事まで判るの?」
「何となく、としか言えないのですが…。」
切り口一つで、誰の仕業かを見抜く玄人の観察眼。赤也に付き合ってテニスも判り始めている。
「赤城、もうチェックは入れなくていいぞ。済まなかったな。」
「いえ。私が判る範囲ですから。ノートを有難う御座いました。」
「ご期待の充血だ。」
柳にノートを渡し、コートを見れば赤目。自然と満は華やかな笑みを浮かべた。何よりも美しい、と思う赤が舞うのだ。
「…赤城。すまんが笑うのは校内試合だけにしてくれんか?知らん連中が何か言うぜよ。」
「あ、すいませんつい。」
傍から見ていると、人の不幸は蜜の味。と言わんばかりの笑みなのだ。
内訳を知っていても複雑だが。
「…何故避けられないのでしょうか?」
「赤城の反射神経は、基準を遥かに越える。全国区だろうと、赤城の万年筆は見えないだろう。」
「母には見えていますが、やはり一般的ではないのですね。」
多用しない事が、救いではある。柔らかな物腰の、少女にしか見られないのだから。
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