螢惑は芥子に眠る | ナノ
彼らは中学生です
勝利至上主義、勝てば官軍など王者は貪欲に勝ちを求める。その下に、数多の犠牲を生んでも。
「…呆気なかったね。」
「満、手塚さんのやつめちゃくちゃ楽しそうに見てたじゃんか。」
「ラフプレイがテニスの醍醐味じゃないの?」
「ちげーよ!ホンット、そういうトコ素人だな。」
「勉強中だもの。」
ラフプレイを見た瞬間浮かべた笑み。満の偏った価値観からなるおぞましい嗜好は、赤也すら理解しえないものである。したが最後とも言うが。
冷酷非情なコート上の殺し屋と、残虐非道な穏やかな死神では格が違いすぎる。
「それにしても、一歩で進める割にはロスが長すぎない?」
「俺、満基準にしねえからな。確かに速いけど立海最速の満じゃ無理だって。」
小首を傾げ、比嘉の特色である縮地法の致命的な弱点を突く。自らも化け物と認める、満だからだ。
満の移動速度は立海の誰もが白旗を挙げる。運動神経云々を越えた、幼い日からの訓練の賜物である。
「そういうものなのね。動体視力は?私の動き見えるかな?」
「見えないのにジュース一本!」
「えー。そんなに比嘉中レベル低いの?」
「満、レベル99魔王って丸井先輩言ってたぜ。勇者以外無理。」
唇を尖らせ、不満たらたらに見上げる満にちょっと鼻の下を伸ばしながらも、赤也は告げ口した。
まるで立海にしか勇者は居ないかのような口振りだ。
「よく解らないけど、実験しよっか?私が本気であの人達の間を走って、バレるかバレないか。私が負けたら明日赤也にお弁当作る。赤也が負けたら朝自力で起きる。」
「俺が勝つに決まってんじゃん。わーい満の弁当楽しみー。」
暑苦しい事この上ない、カップル繋ぎで歩き。満の額にキスを落とす赤也。肩を寄せて、嫌がらない満。
場違いにも程がある。
「じゃ、あの自販機まで走ってくるね?負けたらジュース奢りとモーニングコール無しよ?」
「上等!俺ぜってぇ負けないからな。」
赤也から離れ、満は一目散に自販機へ駆け抜けた。当然ながら、赤也は満を完全に見失う。
「赤也。こっち。」
「…へへーん、俺の勝ちだな!」
「ちょっと向かっ腹が立つけど、本当に見えてないんだね。」
武術の心得を、満は過信している。だが、所詮は中学生の全国大会である。
芥子色のジャージは、目立って仕方ない。赤也が勝ち誇って、自販機へ向かう。
「…永四郎、あの女誰さー?」
「立海のジャージですが、知りませんね。」
「本気で気付いてなかったの?」
「だから満、すり抜け上手いんだから当たり前。」
とりあえず引っ掛かる言葉に、比嘉の面々は怪訝な顔で満と赤也を見た。
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