螢惑は芥子に眠る | ナノ
近所ではいい人


手当てを一通り終え、片付けも無事に終了した。だが一向に中学生達は動けないでいる。

「お母さん、何で?」

「ジェネレーションギャップかしらね。お母さんが満くらいの時には、こんな怪我で騒がなかったわ。」

「お婆ちゃんもコレ塗ればいいってスルーしてたもんねぇ。」

のんびりニコニコと、中学生達を眺めながら凄まじい会話を続ける赤城母子。ツッコミ不在、としか言いようがない。

「とりあえず、お母さん一回帰るわね。晩御飯予約もしなきゃいけないし、切原さんちの奥さんと一時間くらい電話するし。」

「あ、じゃあコレ先にダイニングに置いといて。手入れはするから。」

「はいはい。」

今回使用したナイフを受け取り、満の母は固まったままの中学生達に会釈をして歩き出した。
何らかのプレッシャーでもあったのか、幸村が深く息を吐く。

「…赤城さん。お母さんを呼ぶなら言っておいて欲しかったな。」

「実力行使しなければ、母は何もせず帰りましたよ。後、私の匙加減が危険な際のストッパーでもありましたから。」

「解るの?お母さん。」

「えぇ。痛点は母の方が詳しいですから。伊達に医者やってません。」

普通に、話すだけなら非常に温和な赤城母子。満のあまりにもあっさりした言い方に頷いてはいけない。

「つーか。赤城、不動峰の連中どうすんだよぃ?固まってるぜぃ?」

「部外者秘にはなるでしょうが、どうフォローしましょうか?ここまで叩きのめしても起き上がったら面倒臭いです。」

「満。面倒臭いって。」

「普通無理です。赤城さんの腕前を見てそれ以上の事が出来ない、と断定するには難しいですから。」

言いたい放題言い始めた立海だが、橘が満を睨みつけた。仁王は面白そうに橘を見ているが、他は呆れている。

「赤城、やったな?俺を脅したんか?」

「…それ以外の何があります?真田先輩、お願いしていいですか?」

「構わん。赤城の派手なパフォーマンスは不本意だからな。赤城の母君は師でもある。橘は足下にすら及ばん。」

赤也、ジャッカル、丸井、仁王、満は思いっきり脱力してしまった。この状況でそれ以外の何がある、としか思わない。
真田と柳によって説明され杏が何故と言い掛けた。

「許さないと、橘さんは仰いました。許さないのはご自由ですが、周りをけしかける姿勢は私、嫌いです。自力で挑んで下さい。」

酷薄な笑みで告げた満に、反論出来る者は不動峰に居なかった。実力を示し、その上で満は挑戦を受けると啖呵を切った。
堂々たる姿は、まさに王者の風格。

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