螢惑は芥子に眠る | ナノ
アフターケアはラスボス
ジャージにナイフを仕込み直しながら、いちゃつくバカップルはともかく。立海メンバーは気を取り直して不動峰メンバーを宥めに入った。
「あ。忘れてた。お母さん手当ておねがーい。」
「おかあさ…!?」
森の背中をさすっていたジャッカルが硬直した。立海メンバーが最も恐れる、満の母。
その母は、のんびりと物陰から現れた。満に向けて、笑顔で手を振っている。
「待ちくたびれたわ。満ちゃん、何でこんなにお婆ちゃんそっくりなの?」
「趣味。お母さんに頼んだら面倒な事になるでしょ?あ、お爺ちゃんの後で返すね。」
「要りません。満がこんな事したなんて知ったら、天国のお爺ちゃんが泣きそうだわ。」
いやそう言う問題か?とツッコミたいのは山々だが相手は満とその母。先程までの満を見て、両方を敵に回すのは無理である。
「お婆ちゃんが褒めてくれるなら平気。」
「お母さん泣いちゃう。はい手当てしますから力を抜いて下さいねー。」
「泣いていいよー。あ、先輩方。今回はタダで治療するらしいので、何かあったら言いがかりでも付けて手当てさせて下さい。」
温度差の激しい親子だ。軽口を叩きながら手当てを始める母に、便乗を唆す満。やはり面立ちは親子、笑顔がそっくりだ。怖さも中学生には変わらない。
「派手ねぇ。見事に綺麗なんだけど。」
「お母さんが地味すぎるのよ。赤也、今日ご飯食べに出るけど一緒に行く?」
「え。おばさんいいンスか?」
「勿論よー。後で赤也君のお母さんに連絡しておくわねー。はい、ちょっと傷が大きいけど、ちゃんと消えるから安心してね。」
「あ、はぁ…。」
神尾が呆然と満の母を見上げる。柔らかな声音と笑顔で、満とは違う気がしたのだ。
言っている事が殆ど解らないだけで。
「満、タオル五枚。」
「ちょっと待って。」
立ち上がった、と認識した頃には満の姿は掻き消えていた。
母は慣れたように、石田の手当てを開始する。どこをどう見たらいい?と不動峰のみならず、立海三年も動けない。
「先輩、もう満は何もされなきゃ何もしないッスよ。おばさんも。」
「第一おばさんは満みたいな事しないもの。獲物で遊ぶ趣味は無いわ。」
余計危ないんだよ、と言う満は不在。獲物って何ですか?とも聞けない。
満が戻って来た時、親子以外は固まっていた。
「アルコール貸して。何言ったの?」
「満ちゃんと違って、獲物で遊ぶ趣味は無いって。教えてないの?」
「無いよ。はいタオル。」
手当てをしながら、どうにもベクトルの間違った話を続ける親子であった。
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