螢惑は芥子に眠る | ナノ
解き放て忌避の力


不動峰にとって、運命の日はイヤミな程の快晴であった。練習終了後、完全装備の満を誰も止められない。あれだけ満の危険性を言い聞かせたのに、訪問を撤回しなかったのだ。

「…お前が赤城か?」

「はい。立海二年、赤城満です。はじめまして。」

ユニフォーム姿の不動峰は橘を庇うように、神尾と石田が立っていた。無駄だと言っても、やはり見た目で侮ってしまうのだ。

「神尾の傷は、お前がやったのか?」

「…物凄く今更ですけど私ですよ。コレで。」

手を軽く上げた、と思えば満の愛用万年筆が握られている。立海も、不動峰も息を呑んだ。

「…何なら見本を拵えましょうか?」

至極楽しげに笑顔を浮かべる満を、真田が窘めた。辺りに人気は無いが、満は恐ろしい業を使えるのだ。

「止めんか、赤城。赤城と赤也が暴れたらタダではすまん。」

「タダですむような甘いやり方はしません。」

「何故神尾を切った。」

「私を介して彼氏を貶めるなんて、許せないからですよ。」

笑顔なのだが、満の声音がいつになく冷ややかに聞こえる立海。不動峰の面々も異様さに呑まれた。
杏が語った満の二面が、本物に見えるのだ。

「…もうえぇじゃろ?赤城をこれ以上怒らせんでくれ。」

「人を傷つけていい理由は無いじゃない!」

「友達ごっこをした口がよく仰いますね。」

杏の噛みつきすら、満を余計怒らせる材料。友人付き合いの良さと、怒らせなければ朗らかな満は評判も高いのである。

「…押し問答だね。赤城さん、好きなようにしていいよ。条件を呑むなら。」

「幸村先輩、宜しいのですか?私のいいように、しても?」

幸村を見上げる満の目は、真っ直ぐに暗い。表情もトーンもいつもと変わらない筈が、恐怖にしか見えなくなる。
満のする事が、大体解ってしまうから。

「あぁ、選手生命さえ絶たなければね。」

「では。私が最も見せたくない、忌まわしくおぞましいと考える姿を、見たくない方はご帰宅または部室へお戻り下さい。」

ありとあらゆる赤を好み、その中で生命のそれを愛する満。自ら好んで見ようとはしないが、その手腕が奮われてしまう。
満の進言に立海は首を全員振った。

「ヤダ。俺は満のキレーなとこだけしか知らないなんて絶対ヤダ。」

「…赤也には特に見せたくなかったけど、仕方ないか。」

「赤城さんの本気、ならば私達も見届けて彼らを止めきれなかった事を見て、赤城さんにやらせて逃げるなど出来ません。」

「お、やーぎゅカッコいいー。顔色悪いぜよ。」

口々に立海メンバーが覚悟をする中。石田は橘を。神尾は杏を庇って立った。

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