螢惑は芥子に眠る | ナノ
沈黙の尊さ


深刻さの感じられない満の口振りに、ここまで説明したんだからいいだろ?と言わんばかりの赤也。
三年2人は、さり気なくバカップルを庇う位置だ。不動峰の視線ではなく、満の刃を使わせない為だとは杏も思わない。

「だから何って警察に言えばタダじゃ済まないでしょうが!」

「証拠は?赤城さんが切ったと言った以外に。凶器は何だった?傷痕も無しで騒ぐのは軽率だ。」

勇ましく噛みついた杏に、王者を束ねる幸村が淡々と尋ねた。有るはずが無い。何が起きたのか把握するにも、時間が掛かったのだ。切られた神尾さえ。

「なら、あの怪我はどう説明するんだ?」

「かまいたち、と呼ばれる現象だな。風により小石や葉が肌を切る。赤城の冗談が偶然に成立した、と言えば不思議ではない。」

石田の疑問すら、柳は容易く言いくるめた。満も拍手を贈りたくなる方便だ。
迂闊な事は言えない、と黙っているが。

「なら、マムシとか桃城がビビるのは何でだ?」

「合宿でゴタゴタがあったんだよ。お前らに関係ねぇだろ。青学の女子に満んちがストーカー被害に遭って俺が捕まえたけどニュースになったろ。」

見事な話のそらし方だが、柳と満の口裏合わせで指示をしたのだ。事実は覆らない。

「もう充分でしょう?皆さんで立海にいらっしゃると聞きましたし。…まぁ、詳しい話を聞きたいのなら海堂君と桃城君、そして河村さんがよくご存知かと。話すかは解りませんが。」

「確かに。水掛け論に付き合う暇は無いし。行こう、赤也が止められなくなる前にね。」

意味深な笑みの満と幸村は頷いて、それぞれ赤也と柳を見た。まだ言いたげな赤也は軽く挑発する。

「潰すのはテニスでやるッスよ。ま、部長の橘を倒したし敵になんねー。」

「言い過ぎだ、赤也。」

立海に不動峰は手も足も出なかった、それもまた覆らない事実。私怨に駆られようとも、満には歯が立たないのだ。
反論出来ない不動峰を放置して、4人はやっと帰路に就いた。

「危なかったね。本気で刃物が飛ばないかヒヤヒヤしたよ。」

「私としては柳先輩の方便に拍手したいです。まさかかまいたちで黙るなんて思いませんでした。」

「最初に赤城を調べた時にかまいたちが引っかかっただけだ。俺の技に名付けたが無関係だぞ。」

「満の技って何かあったっけ?基本ごちゃ混ぜでわかんねぇ。」

帰りは至極平和な、取り留めもない会話を続けていたのだった。不動峰が来るまで、素知らぬ顔を貫き通す算段。
あくまで立海内の話で、他校は言えるものなら言ってみろと無言の圧力をかけていた。

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