螢惑は芥子に眠る | ナノ
牙を研げ、爪を伸ばせ
目的地の前に。一体何を満が仕込んでいるのか?と近所の公園で、人気が無い事を確認してから問い質し始めた3人。
満がリストバンドから出したのは陽光に煌めく糸に見えた。思わず、柳すら軽く首を傾げてしまう。
糸は流石に殺傷力が無いと考えた。
「これは母直伝ですが、ピアノ線に似たようなワイヤーです。凄く切れ味のいい糸鋸、と言えます。」
トラップにも使用可能、落とせなくとも首を狙えば確実に仕留める。巻き尺のように伸縮自在な曰くありげな品に、絶句していた。
「…おばさんそんなん使うのか…?」
「うん。基本的にお母さんは綺麗に、効率良くを目指したからね。私みたいに遊ばないから腕が鈍ってるけど。」
ラスボス、とゲーム好きに言わしめた満の母。腕が鈍ってる、とはつまり満が凌駕したと言う事。
ただでさえ扱いに困る後輩の、当たり前と言わんばかりの口調に幸村は満の肩を力強く掴んだ。
「赤城さん、教えてくれて有難う。他には何がある?俺もそんな物は使って欲しくないから。」
「幸村先輩、意見は一致しますが痛いです。」
その気になれば関節を外して、逃げる事も可能だがその必要は無い。柳に促された事と、赤也が独占欲剥き出しで睨み付ける事に苦笑して満から手を離した。
そして瞬時に、満は左手にナイフをずらりと挟んで見せた。
「昭和のジャック御用達、お母さんのタンスの底で譲られたものの殆ど使われずに、手入れだけされていたナイフです。」
「…タンスの底にそんな物をあの先生は仕舞っていたのか。」
明らかに切る為のナイフ。法律上も問題がありすぎる満の祖父の遺品。見られたら確実に逮捕か補導されるだろう。
全身凶器、と言っても過言ではない満の凄まじい装備だ。
「グレードアップしてるのは俺の気のせいじゃないよね?」
「はい。文房具を減らし、実用品主体にしました。腕の立つ人が居た場合、万年筆で赤也や先輩方を守るには少々心許ないのです。居ないと思いますが。」
「満。いねぇよそんな奴。俺も万年筆振り回したの見えねぇんだから。」
世の中上には上がいる。満はそれを懸念して重装備にしたのだ。互角が居ないと断言出来ない。
全国各地の中学生をかき集めても、満に腕を認められる者は居ないが中学生に限らない。
「杞憂に終わればそれに越した事は無いわ。万年筆で降参、が一番平和的かつ誰も怪我しないし。」
「赤城、その為に俺と幸村がいる。それを片付けて早く帰ってしまおう。」
立海の主張は常に一貫している。見境なく満が振り回すなど有り得ない、だから放って置いてくれ。
満が本気になれば、関係者全員あの世行きなのだ。
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