螢惑は芥子に眠る | ナノ
動かず騒がず


一度帰宅してから、待ち合わせをしている幸村達。
確かに制服やジャージだとすぐに見つかり、突っかかれるおそれがある。助け舟は自分達三年が出すと決めてもいるのだ。

「お待たせしてしまいましたか?」

柳が一番乗りに待ち合わせ場所である、駅前の時計前へ到着していた。満は二番手だ。時間厳守の性分と、満が下手に遭遇して騒ぎにならないか懸念した。
信用されていないような気にもなるが、満の見た目に騙される者が多いのだ。

「いや、集合10分前だ。赤城達には悪い事をしたと思う。」

「仕方ないですよ。柳先輩が謝る必要はありませんしこちらこそご迷惑をおかけしていますから、謝るべきは私です。」

苦笑して手を振る満は、涼やかな水色にさり気なく赤を入れた優しい色合いの洋服だ。
ただ、その下には何本ものナイフが仕込まれている。満なりの配慮で、伝えていない。

「2人共早いね、後は赤也だけ?」

「あぁ。もうこちらに走り出している。」

柳の身長は高い。よって、目印にしやすくもある。幸村も赤也も満も、柳を目指して集まった。私服でも目立つ、王者立海。
満はあまり派手な見た目ではないが逆に浮くのだ。

「お待たせ満!」

「大丈夫、制限時間内だから気にしない。さっき来たところだから。」

お約束のセリフすら、最早日常茶飯事だ。こうしていてくれれば、どれだけ物理的に無害なバカップルだろうか、と三年が嘆きたくなる。
さっさと都内に行って何事も無く帰る、と言う切実な目標を願いつつ電車に乗った。見つける前に見つかれば面倒にしかならないのである。

「それにしても、よりによってお店が氷帝の近くなんてね…。」

「氷帝出身の方ですからね。」

運がいいのか悪いのか。氷帝メンバーには百害あって一利無しだ。会っても見なかった事にするかもしれないが、そこは仕方ない。
立海も巻き込むつもりは全く無いのだ。

「赤城のせいにはならないだろう。」

「どっちかっつーとおばさんのせい?」

唐突にインスタント改め本格派コーヒーに目覚め、大騒ぎを起こす娘をパシリに使うのだから。ただ、満も便乗しているのでお互い様とも言える。

「まぁ、何かあっても対策は出来ますし。タイミングの悪さは否定出来ませんけれど。」

「…対策って?」

どうにも引っかかる、と赤也が尋ねると満は耳元で小さく、世にも恐ろしい事を囁いた。

「見せられないけどお爺ちゃんのナイフを何本か仕込んだの。パワーリストの下にもちょっと。」

「ちょ、色々待て!お爺ちゃんって!?」

「赤也。電車で騒ぐな。」

気持ちは解るが、と柳が窘める。少々ではすまない、痛い視線が乗客から注がれていた。

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