螢惑は芥子に眠る | ナノ
会いに行く予定は無い


来週の日曜日は休み。それ以外にも午前中のみ練習と言う日がある。
もっぱら、満は赤也とベタベタしている事が多い。
それでも買い物に向かったり、友達付き合いも怠らない性格が幸村達を戦慄させた。

「あ。赤也、明日練習終わったら都内にキリマンジャロとアップルティー買いに行かなきゃいけなくなった。」

「へ?何で?満の母ちゃんインスタント派じゃなかったか?」

「最近凝り始めて。私もフレーバーティーにハマったのよ。」

他愛もない、急に何故か試したら気に入った。という今時の中学生とその親。見ている分には微笑ましい限りなのだが、この親子は毒を含んだ牙がある。
片や一撃で仕留め、片やじわじわと苦しめる毒。その存在を知っている以上、見過ごすには彼らは良くも悪くも優しいのだ。

「俺も行っていい?」

「自主練するんじゃなかったの?天才不二に一矢報いるって息巻いていたじゃない。」

それは確かにそうだ。だが満が望まないトラブルに巻き込まれて、余計に被害者を増やすのもまた事実。後片付けを手伝いながらも、満と赤也は穏やかに話していた。
聞き逃す三年生ではない。

「コーヒー豆とフレーバーティーをわざわざ都内に買いに行くの?」

「はい。母の旧友が経営しているお店がありまして、フレーバーティーの品数が豊富なのです。」

満の都合と、母の幅広い人付き合いの誼だ。満に負けず劣らず、外面の良さは折り紙付き。寧ろ母が満に教えたと言っても過言では無いのである。
悪魔すら手に掛ける腕は親から子へ、しっかり受け継がれているのだから。

「俺も興味あるな。ほら、入院中の楽しみって多くないからお見舞いの茶葉で淹れたり、みんなで飲んだだろう?」

「あぁ、カップを看護師さんからお借りしましたね。でもよろしいのですか?練習をしていらっしゃるでしょう。」

「休みはちゃんと休まないとね。赤城さんが良ければ一緒に。」

「なぁなぁ赤城。ケーキ売ってるか?」

「無かった筈です。美味しければ、母が買いますからね。」

ネットを抱え、困ったように笑う満だが赤也に奪われた。確かに今の満を都内に行かせるのは危険。だが止める理由が無い。
ならばジャッカルと丸井を見習って惨劇を回避するべきだと、理屈では解る。

「じゃ、明日練習終わったら行こうぜ。何か面白いもんありそーだし。」

「それはいいけど…赤也もうお小遣い少ないって焦ってなかった?」

「ゲーセン行かなきゃ大丈夫!…なはず。」

斯くして、幸村と柳、更にバカップルの遠出が決まったのであった。
悲劇か惨劇かは、誰が決めるのであろうか。

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