螢惑は芥子に眠る | ナノ
不規則変化に見える


やろうと思えば、いつでもどこでも出来る。この一言が三年生達を見事に叩き落とした。
思い返せば、確かに出来る事なのだ。

「…何故赤城さんは出来る事をしなかったのでしょうか?」

「解らん。だが今まで俺達は赤城の何を見ていたのだろうか。」

例えるなら、真剣を扱う真田。禁欲的な姿に、皆は彼が剣を人に向けるなど想像すらしない。ただ、満は副産物である朱を好む。
好きなだけで、自ら望んで見る事は無いのだが。

「弦一郎、赤城は元々やる気が無い。売られた喧嘩は買うが、校内で騒がれるようになったのは赤也と付き合いだしてからだ。」

「そう言われてみればそうじゃのぅ。万年筆で有名になった以外は。」

一年生の時は、噂にすらならない優等生として振る舞い続けていた。
昼休み、金曜日の保健室が怖いと噂にはなったが、満本人が有名ではなかった。万年筆の事件で、学年主席の勇気ある模範生として満の名が知られたのだ。
千人を超える学校だから、そう簡単に有名になれる事は無い。

「やる気を出すまでも無いか、そもそもそんな事をする必要が無いか。後者っぽくないか?」

「確かに…赤城はあの変質者ん時以外俺達に見せてない。黙ってろとも言わなかったよな。…言えねぇけどさ。」

「だな。桃城も服だけ切って脅しみたいだったぜぃ。マジで怖いけど。」

満がその気なら、シャツだけではなく肌まで切れた。それは間違いない。もう容赦はしないと言ったが、彼らは無傷だ。
神尾と言う例外がいるが実は、ジャージを切るのは財布に気の毒だとちょっと間違った考えに至ったのだ。不動峰のレギュラージャージ、つまりテニス道具一式の値段に驚いた満だからこそ、だ。

「ま、赤城に不幸の手紙送って転校した奴も俺のクラスには居ったがのぅ。」

「あーいたいた。赤城の事仁王が喋って、何週間かしたら居なくなった奴だろぃ?」

今にしてみれば何とも恐ろしい話だが、詳しく知らなかった怖いもの知らずと言える。満を知らなければ、無謀と思わない事をしてしまうのだ。

「赤城は名前も知らないまま居なくなったらしい。…ところで幸村、次の休みはいつだ?」

「来週の日曜日。確認しなきゃいけな…!」

「すみません、1抜けさせて頂きます。」

「待ちんしゃい柳生!」

こんな話を、いちゃつくバカップル放置で練習の休憩中にする王者。さして時間はかかっていないが、仁王の大声に気付かれた。
このあたりが潮時、と割り切るには些か間が悪いが切り上げる他道がない。
事実、満が彼らに刃を向けた事は赤也以外無いのだ。

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