螢惑は芥子に眠る | ナノ
ご懸念はごもっともです


三年生達の心痛などつゆ知らず、相も変わらず練習後のコートにてバカップルはテニスを楽しんでいた。
僅かにタガが緩んだ状態だからか、シャレにならない真似を満は次から次へと繰り出していく。

「満ずりぃぞ!素でレーザーやるなよ!」

「え、ダメって言われてないじゃない。」

そこは空気を読んでくれ、と柳生が嘆きそうな満の組み合わせ技。力業はなかなか返せないが、技量に関しては赤也もムキになる。本当に初心者だから、満は自分の型を持たないのだ。

「ぜってぇ負けらんねえ…!」

「おーい。お前らストップストップー。赤也と赤城がキレたらマジで困るんだよぃ。」

「へ?あ、はい。」

丸井の一声で、満は動きを止めた。集中しなくとも真似が出来るまで、満は成長している。それまでは横槍とばかりに、数名がサーブを入れたのだ。
いいのか悪いのか、と三強は大層複雑な気分になる。自分達のテニスに注いだ努力、それを満が体で否定しているからだ。尤も、満は基礎が抜け落ちた状態でプレーしている。

「え、何でッスか?」

「赤目になりかけたからあぶねーんだよ。」

肩をすくめるジャッカルだが、その顔色はさえない。医者の娘である満は、薄々感づいているが沈黙を保ったままだ。
関わらなければいいだけの事、と台風の目が思うには責任感が欠けているが。

「私はともかく皆さんが危ないですね、確かに。」

「2人してキレたらスプラッタ間違いナシ。真田でも赤城は止めらんねーって言ってたぜぃ。」

「…反応に困ります。本気で怒っても振り回さないようにしたいので。」

それが出来ているなら、桃城も神尾も切られなかっただろうと言われる事請け合いだ。ただの脅しにしても慣れていなければ、反応出来ないのだから。

「つーか、満本当にやる気ならいつでもどこでも出来んだろ。」

「え?」

「否定出来ないけど、そんな事考えた事も無いわ。やっても楽しくなさそうだってすぐ解る。赤也とテニスをする方が、私は楽しくて仕方ない。」

晴れやかな笑顔を向けられて、赤也は照れたようにそっぽを向いた。ただし、丸井とジャッカルは放心状態だ。
やろうと思えば、いつでもどこでも出来る。

「…あの、ジャッカル先輩?丸井先輩?もしもーし?私はやっても意味の無い事をわざわざやる趣味は無いですよー?」

懸命に手を伸ばし、ジャッカルの顔へ手を振る満。このやる気の無い死神は平和を尊ぶ、どこか矛盾した存在だ。
火の粉は振り払うものだが振り払い方に問題がありすぎる。満が我に返れと合図をしていたが、赤也に引きずられ2人は置いてけぼりを食らった。

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