螢惑は芥子に眠る | ナノ
その血で洗い贖え


赤城家は、母方が素晴らしく物騒でありながら華々しい肩書きがついて回る。満も母も、今回の騒ぎは流石に腹に据えかねた。
騒ぎを起こされ、巻き込まれてはたまらない。

「満。仕留めなければ使っていいわ。…何年ぶりに使われるのかしらね。」

「有難うお母さん。五年は昔ね、お母さんの手は数えるくらいだし。」

ずらりと並べられた、ナイフなどの幾千もの朱を吸い続けた品。
満は徐に一本のナイフを取り、検分するように見た。満の母は、一撃必殺を得手とする。ナイフはあまり使わないのだ。

「あんまりお母さんの癖が無いね。使ってる?」

「ううん。使ってない。お爺ちゃんの癖が付いてるでしょ。」

「見れば解る。…さてどこに仕込んだもんか。」

薄く軽い、持ち手が投げる事を計算された忌まわしいナイフ。スカートはまだしも、ジャージは少々使い勝手が悪い。日頃は幾つも持ち歩かないのだ。

「文房具を減らすしかないわね。使わないに越した事は無いのよ。」

「やっぱりね。万年筆でも騒ぐし。使い勝手はいいんだけど。」

腕に関しては、やはりキャリアを積んだ母が上手だ。年齢には勝てないが満を軽視してもいない。
母は自分が生き抜く事だけを考え、満は赤也を筆頭に守り抜く事を考える。それだけ平和な世の中である、とも言えるだろう。

「お婆ちゃんが居なくて良かったわね、今頃その不動峰だっけ?全員土の中で寝てるわよ。」

「お母さんの部屋とどっちが幸せかしら?加えさせる予定は無いけど。」

互いに、母の嗜好を嫌悪するのは血筋か。
祖父母に母と持てる業全てをその目に焼き付け、全く同じ真似が出来る筈の娘。だからこそ使わない名人芸は立派な犯罪だ。

「見てもいない子を並べる趣味は無いわ。満、たまには本気でかかって来てみなさい。」

「どんな怪我をしても、誤魔化せる?」

「愚問ね。」

口は笑っていても、目は笑っていない。検分したナイフを持ち、赤い花が咲き誇る夜の庭に向かって、静かな火花を散らす親子。
その様を誰かが見たなら。呼吸も瞬きも、ましてや声すらも上げられないまま、近寄る事も逃げる事も出来ないだろう。

「遅い。」

「っ!それが本気?」

「出せと言われたから出したけど、無理?板を増やさなきゃいけないかな。」

母の手から繰り出される、美しい針をすり抜けて満は喉元にナイフを突きつけたまま動かない。

「…腕ゴツくなるわよ。あいたっ!」

「その話はしないで。体重も嫌なの!もぅ。…お爺ちゃんには悪いけど男の血で汚れるかもね。」

鳩尾に一発、柄を叩き込まれた母であった。

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