螢惑は芥子に眠る | ナノ
バックミラーに映る


立海はランニングに満を参加させている。だが、その練習は一言では言い表せない恐怖を味わうのだ。

「98、99、100!スタート!」

見える恐怖に慣れよう、と幸村発案柳監修のランニング。要は、満とレギュラーに交代で追い掛けさせ、追い付かれたら練習追加というものだ。
満による妨害工作は無し。ジャージに仕込ませてもいない。
それでもやっぱり怖いものは怖いのだ。

「ぎゃー来たー!!」

「ほらほら追い付いちゃうよ〜?」

満は非常に楽しそうな様子で笑う。それが余計に怖い事を、満が自覚しているのか否か。
平部員はたまったものではない。意地でレギュラーと同じ速さを保つのだ。

「…怪談話で無かったかこういうの。」

「あるな。あれは車で更に高速道路だ。」

柳生の顔色は既に悪い。満の楽しそうな笑い声が追い掛けて、近付いて来るのが如実に解る。
真剣にもなるだろう。

「丸井せんぱーい、もう追い付いちゃいますよ〜?ふふふ。」

「赤城怖い!怖いから笑わないでくれ!」

「楽しいじゃないですか鬼ごっこみたいで。」

「満の鬼ごっこは罰ゲームアリだろ!?」

叫びながら走る部員。体力を削るだけなのだが、叫ばずにはいられない。何らかの凶器を所持させれば、ホラー映画だ。

「丸井先輩つっかまえーた。」

「うわー今日も赤城に負けたーっ!」

「タイムは伸びたぞ、赤城が速くなった。」

「ブンちゃん赤城以下になったんか…。」

れっきとした、練習であるが彼らも中学生。それなりに楽しんでいる者もいて当たり前だ。
満も完全に遊んでいるが、真田に追いかけられるのは怖い。

「目指すは真田先輩!ほらほら赤也も抜いちゃうよ〜?」

「絶対!負けねぇ!」

凄まじい勢いで、朝っぱらからランニング。授業中居眠りする部員が続出も、仕方ないだろう。
慣れれば当たり前になる恐怖だ。満が何かする訳ではないのだから。したらしたで問題になるのだが。

「赤城さんだけにはみんな頑張るね。」

「幸村、弦一郎に関しては赤城も真面目に走るぞ。」

「そもそもこれは練習だ、何を喋っとるか。」

今のところ、無敗は真田と幸村と柳、そしてジャッカルだ。三年生とレギュラーのメンツに懸けて、負けられない。満も常識の範囲で走るから、顔を立てているのだ。
ほんの少しだけだが。楽しんでいたらつい抜いてしまった、と柳生と赤也は一度きり。仁王は満のギリギリ前を走り続けるリスクを楽しむ。

「ランニング終了!残念だったな、赤城。」

「仁王先輩が凄く嬉しそうに笑ってるのが悔しいです。」

怖いのか平和なのか。立海の朝は騒がしい。

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