螢惑は芥子に眠る | ナノ
無縁のはずが


無論、青学はさっさと桃城の報告を受けて他人事とは思えなかった。関東大会前に、満から冷や汗を禁じ得ない言葉を聞かされたからだ。

「赤城さんが、真顔で不動峰の神尾に?」

「…死ぬぞ、神尾。」

流血の洗礼を受け、身動きすら出来なかった不二が青ざめる。注意したのに、と海堂も呆れ気味だ。

「神尾の右頬、何かで切ってたし…。」

「また、見えないけど種も仕掛けもある、って奴か…。」

驚く暇すら与えない、躊躇いも無い傷。使い慣れた品であれば見せ付ける事すら無く、浅くも深くも切れるのだ。

「何言ったんだか…。」

「化け物、切原の趣味疑うってな。」

越前は思わず、深い溜め息を吐いた。確かに満は誰の目から見ても、穏やかそうな少女だ。だが身体能力と嗜好は異常。化け物と呼びたくなる気持ちは解らなくもない。
相手が同じ中学生でなければ、笑って許していたのかも知れない。

「幸村が、日本一敵に回してはいけない後輩と言うんだから相当だな。」

「教授から何らかのアクションがある確率95%。氷帝も赤城の怖さは知っている筈だ。」

知りたくない、知らなければ良かったと後悔する満の神業。話しても信じられるとは思えない。
目の当たりにしても、自分の目を疑うのだ。一瞬だから、止める事は難しい。

「不動峰に、海堂は注意したと言っていたが。機会があれば警告すべきだ。」

化け物が人間の皮を被って生きてる、命が惜しいなら関わるな。海堂の注意は切実なものだったのだが…当事者にしか解らない事とは世の中に溢れている。

「間に合えばいーけどねー…。」

痛い目を見た菊丸。信じなかった代償はあまりに大きすぎたが、だからこそ解るのだ。絶対不動峰は信じない、と。
満の怖さと優しさを知ってからは、恐怖が先行する。

「阿久津みたいに、解っててやるならまだしも…神尾は知らないだろ?」

満は、赤也に対しての侮辱に腹を立てた。
自分が異能だと、知っていても好いてくれた赤也。それを否定されては黙っていられない。
河村の見た事が、白昼夢だと不動峰から笑われかねないが、事実だ。

「妙なんだけど…桃城、赤城さんの事危険物呼ばわりしたのに怒らなかったみたいだね?」

「そういやそーっすね。」

衆人環視で派手な真似はしないのか、とも桃城は一瞬だけ考えたがゲーセン騒ぎは違う。背筋も凍る視線を向けられていない今回は、謎が青学にも多い。不動峰程では無いにしろ、満に関しての情報が圧倒的に足りないのだ。
刺激しなければ大人しい満が、簡単に尻尾を出す筈がない。

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