螢惑は芥子に眠る | ナノ
深紅の絨毯の先


神尾が満の逆鱗に触れた。その八つ当たりになりそうな不機嫌は、立海メンバーを固まらせるに充分な恐ろしさを伴う。

「…おい、赤也。お前さん赤城に何かしたんか。」

「な、何もしてないし心当たり一つしか思い浮かばないッスよ。」

「切原君、その心当たりとは?」

満が都内のストテニへ友人と行ってから、メール内容が不機嫌だとよく判るものだった。都内で何かあったとしか思えない、と言う赤也の推測は正解だ。
だが、プレッシャーを越えて畏怖すら覚える。真夏なのに首筋がひんやりするのだ。

「…不動峰二年、神尾。奴が諸悪の根元だ。」

「へ?不動峰って関東で負かしたな。」

5W1Hで解りやすく説明してくれ、と言いたげな幸村と真田。恐怖を乗り越えれば、普通に礼儀正しく丁寧に答えてくれるあたり、無自覚。

「不動峰の女子とストテニに行き、ジャッカルに習った後衛をしたらしい。その後青学の桃城、不動峰の神尾と男女混合ダブルス。前衛は見様見真似、と言っていたが…禁句を神尾が言ったらしい。」

二度と奴の名を聞きたくない、と満が薄ら寒い笑顔で言うのだ。
そして満の身体能力は数字に出さない。百聞は一見に如かず、とはよく言ったものだ。

「桃城、一回死にかけても懲りねぇのかよぃ。」

「ついでに、ジャッカルへ有り難うと伝言されていたそうだ。全く生かされていないようだな。」

朝練から、葬式のような重苦しい空気がコートを覆っている。満の機嫌が最悪、原因が赤也ではないから解決方法が思い付かない。

「…もう面倒くさいから赤城さんにゴーサイン出して不動峰血祭り?」

「幸村。冗談ではないぞ。赤城が血祭りに上げればこの世の地獄だ。」

「つーか、もう地獄のカウントダウン始まってんじゃね?」

笑えない。凄まじく恐ろしい事だ。生半可な怪我で機嫌を持ち直すと思えないのだ。
スプラッタホラーは実体験したくない。二度と。どうしよう?と部室で頭を抱えるレギュラー。

「氷帝経由で、青学と渡りを付けて不本意だが共同防衛が妥当か。」

「俺は満の暴走抑えるンスか?」

「青学も赤城の恐ろしさが解っとらん。赤也、赤城を頼むぞ。」

立海には直接、満が何らかの危害を意図的に加える事は無い。不機嫌は副産物、レギュラーは勝手に怯えているだけなのだ。
今にも神尾の頬を切った満の愛用万年筆が、八つ当たりに使われそうで。

「ッス。んじゃ先に失礼しまーす。満ー!」

「今度は何の悪巧み?」

「…不動峰のバカに満が二度と会わないように。」

「それは有り難いわね。二度と名前も聞きたくないから。」

柔らかいのだが、迫力満点の笑顔。満と幸村は、ある意味同類だ。

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