螢惑は芥子に眠る | ナノ
悲劇の前座は喜劇


特に危害を加えなければ、極めて穏やかな優等生である満。彼女を珍獣呼ばわり出来るのは、満の所業を知る者だけだ。

「試しに軽く?」

「万年筆の真実!って思ったのによー。」

「見せ物じゃないから。桃城君、今度こそ使い物にならなくするわよ。」

冗談に聞こえない冗談。桃城は慌てて撤回した。使い物にならなくなる、と言う事はその腕が狙われる。
一度ならず二度までも命に関わる事態は避けたい。

「ウソですすんません二度と言いません。」

「…赤城さん、何者?」

「えっと。不名誉なあだ名が変態保健委員。柳先輩曰わく穏やかな死神。先生からは評価高いのに。」

流石に杏も、満を胡乱な目で見てしまう。手元を見ずに糸切り鋏を転がす満は、不名誉なあだ名とは程遠く見える。その外見に油断して、青学は被害者になりかけたのだ。

「切原の彼女なのに、変態保健委員?」

「血の色が好きなの。これで解るかな?」

味見をする事も別に隠したところで露見する。問題は神速のナイフ捌きだ。

「赤城、怪我嬉しそうに見るからな。」

「え…?」

桃城のげんなりした口調に2人共固まる。
人の不幸が好きなのか、なら変態と呼ばれる理由が解らない。事実だが、謎だらけだ。

「運動部なら、当たり前に怪我するし。…もうテニスしないなら、帰ってもいいかな?」

小さく首を傾げ、お喋りする為にはるばる都内に来た訳ではないとアピールする満。
長く話しているが、帰らなければならない。学生の本分は勉強、明日も授業はあるのだ。満の言い分は当然である。

「じゃーさ、俺と赤城。神尾と橘妹でダブルスやってみねぇ?」

「え、俺が杏ちゃんと!?いいのか?」

「私は賛成!赤城さん、やりましょ?近くにコートあるから。」

川岸にある、コンディションはイマイチのコート。慣れ親しんだ三人は早くも乗り気だ。

「まぁ、電車も余裕あるし…今日はこれでおしまいならいいわ。」

鋏を仕舞い、案内する三人の後に満は続いた。ナックルサーブを打ち返す怪物、女子だが重いパワーリストを着ける、満の真骨頂は見ずに済みそうだ。

「桃城君、前衛?後衛?」

「赤城は前衛じゃねーのか?」

「習ったのは後衛よ。」

「あー…まさか桑原?」

「うん。ジャッカル先輩のやり方をお手本に。」

普通じゃやれねーなぁ、やれねーよ。と内心呟くも神尾のスピードは並みではない。それを上回る満の速さはどうしたものか。

「フォローすっから、前衛やってみろよ。」

「構わないけど…どこからいけないか教えてね?」

基準が間違っている満。下手をすれば菊丸を上回る身軽さと、神尾をあっさり捕まえた速さで桃城の出番が無くなる。

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