螢惑は芥子に眠る | ナノ
曲者が暴露


こんな風に、とシャツの袖から何の変哲もない糸切り鋏を取り出して見せた満。手品めいた隠し方に、杏は目を輝かせて拍手した。

「赤城さんすごーい!」

「で、鋭いからスパッと缶切りでも布なら切れる。ね、桃城君。」

それ以上の事もやってのけるが、桃城は見ていない。そして知らない。

「まぁ、な。つーか何で糸切り鋏?」

「ほつれが先輩方も多くてね。一応持っておくべきかなって。流石に試合の休憩で縫い直しは無理よ。」

何でもかんでも出来る、と思われがちだが世の中そんなに甘くない。家業柄、犬歯で切るなどサバイバル以外やりたくないのだ。
タグの切り忘れなどもあったらイヤだ、と持ってきたのである。

「うちの兄貴もよくお母さんに頼んでるから解るわ。私もスコート直したりするし。」

「いや、つかどっから今ハサミ出て来たんだ?」

神尾の質問に、袖から出しました。とは言いにくい。カバンを肩に掛けている事を利用し、にっこりと指した。

「このポケット。あんまり大きくないから目立たないでしょ?」

満が腕を動かした位置から考えても、不思議ではないのだが。早技は動体視力を誇るメンバーも見えないのだ。
桃城は疑いの眼差しを満に注ぐ。見えない何かで血塗れになった、と言う海堂と阿久津を傷だらけにした、と言う河村の目撃談を否定せず、種も仕掛けもあると言い切ったのだから。
神尾の選手生命を心配するのは、自分も危ぶまれたから。

「…万年筆で切れるんじゃなかったか?」

「うん、切れるよ。」

あっさり肯定しているが、万年筆の強度は多数の番組で検証されている。刺すのが精一杯、と言われているが満はスッパリ切ってしまうのだ。

「え?赤城さんって立海の万年筆で有名な女子なの!?」

言ってなかったっけ?と満は首を傾げる。更に神尾は気付かなかったのか、とも考える。
最早誰が知っているか解らない域だ。

「万年筆で切れる?」

「あ、神尾知らねえか。俺桑原のお陰で何とか生き延びた。赤城めちゃくちゃな速さで走るわ切るわで立海でも敵に回せない不二先輩みたいな奴。」

「…天才と、似たようなタイプ?」

満は天才ではない。どちらかと言えば秀才だ。下積みがとんでもない事を知らないのだから、同一視されるだけ。

「赤城さん青学No.2と知り合いじゃないの?」

「顔見知りではあるけど殆ど話した事は無いわ。」

それに、速さと基礎任せで全くテニスの練習はしていない。見て盗む技術で何とかしている。

「赤城、試しに神尾にやってみろよ。軽く。」

「断固として拒否するわ。冗談にならないもの。」

それが怖さを助長しているのだが、未知の生き物扱いは嫌だろう。

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