螢惑は芥子に眠る | ナノ
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神尾や杏も、あまりに一般的とは言い難い趣味に顔が強ばる。金属製なのだから手入れが必須だと普通は知らないだろう。
「芸術品だから手入れをしなきゃ劣化しちゃうんだけど…変?骨董品だし、オークションでも取引される品なのだけど。」
そもそも満が早業を繰り出せるのは、ナイフや針などの軽さを重視した物。槍や刀を振り回した事は無いのである。
桃城は、立海レギュラーと同じように振り回す満を想像したのだ。
「芸術品…?刀とか槍が?マジ?」
「神尾君、銃刀法と言って刃渡り何センチ以上の刃物を持ち歩く事は禁止されているけど。日本刀や過去に使われた武具は、芸術品として登録すれば違法じゃ無くなるのよ。美術館の展示品が成り立たないわ。」
確かに言われたら納得出来る事だ。持ち運びなども大いに有り得る。
が。女子中学生の満が、刀を手入れする事は変だ。
「…何で赤城さんが持ってるの?」
「お母さんにねだってオークションで競り落として貰ったり、骨董品好きのお母さんのお友達がプレゼントにくれたり。」
杏の素朴な疑問すら、あっさり答えてのける。だからそれも変なのだ、と言える勇者は立海に居ない。
刃を扱う者として、手入れは怠る事が出来ないよう教育された結果なのだが。
「…赤城。それ、使えるのか?」
絞り出すような声で尋ねた桃城に満は目を丸くした。芸術品と言い切っているのにその質問は無いだろう、と言わんばかりだ。
「芸術品を汚すような人に持つ資格は無い、と私は考えるけれど。綺麗に保つのも大変だし。」
かつて血を吸ったかも知れない品でも、今ではそう簡単に使う事は無い。満なりのポリシーだ。
愛用のナイフもきっちり手入れを重ねている事は、知らない方が確実に幸せである。
「使う?どういう意味だよ桃城。」
「…赤城な、一瞬でTシャツ切るから。」
「誤解を招かないで。アレは缶切りよ。」
神尾と杏は、ますます事情が解らないと眉を顰めた。立海の満と、青学の桃城の間に何だかよく解らない因縁がある。桃城は明らかに満を警戒し、怯えている事は確かだ。
「詳しく聞きたいんだけど教えてくれる?」
「具体的な質問なら答える事もあるかな。洗いざらいは言わないわ。」
かなり分かり易い桃城の態度から、しらを切る事は無理と判断した。赤城家の鉄則に反するが、桃城が知っている事は遅かれ早かれ露呈する。
「缶切りとTシャツってどういう事だよ?」
テニスを楽しむはずが、青学と満の関係を説明しなければならなくなった。内心溜め息をついて、満は言葉を選びながら説明を開始したのだった。
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