螢惑は芥子に眠る | ナノ
質問には正直に


立海に訪れた時の悪夢が蘇ったのか、今にも倒れそうな顔色の桃城。

「お、おい桃城?大丈夫か?真っ青だぞ。」

「…赤城。本当に、切原がやったのか?」

もしかしなくとも、満が手を下した事を赤也の手柄にしたのでは?と考えたくもなるだろう。
だが満も母も手を出していない。

「そうだけど。お母さんに任せた日には悪趣味が増えかねないし、私がやったら近所迷惑だもの。」

悪趣味?と三人は目をしばたたかせた。
世の中には知らずにいた方が幸せな事がある、と桃城は多少学習している筈なのだが。

「医学、特に外科はホルマリン漬けの」

「解った!解ったから語らないでくれ!」

神尾の素早い対応で、満の母の悪趣味を語られずに終わった。満も楽しい話題ではないので、すぐに打ち切り桃城を見る。
悪趣味が増えかねない、ホルマリン漬けとヒントは出したが真実にたどり着くには難しい。
合法であっても、赤城家の怖さは立海レギュラーが一番知り尽くしている。

「…赤城の母ちゃん、本気で何者?」

「外科、内科、小児科を標榜する診療所の医師で経営者。お父さんは私が二歳の誕生日を迎える前に病気で亡くなってね。」

母方の血筋がとんでもなく物騒だが、父方はマトモな医者の家系である。なるべく真相に気付かれないように、慎重に言葉を選びながら話す満。
穏やかな死神、と柳が語る満は極めて強かな策士でもあるからだ。

「それじゃあ、赤城さんって立海レギュラーとはどんな関係?」

「救護要員よ。お母さん達に頼んで、基本的な手当ては習ったの。小学生の頃は私も山に友達と行ったり、お婆ちゃんちで日が暮れるまで遊んで怒られたりしたから結構怪我したし。」

嘘ではないが全てを語るわけではない。疑われない鉄則を守るべく、満も母も似たり寄ったりな言い方をするのだ。
桃城とて一面の端っこを見ただけ。詳しい事情は赤也と柳だけが知っている。

「え、意外!赤城さんってピアノとかやってそうなイメージだったわ!」

「家にピアノは無いわよ。プレーヤーで好きな音楽はお母さんがかけるけど、私は勉強かテレビかどっちかかな。あ、本も読むわね。最近は柳先輩と柳生先輩からよく借りるし。」

家業を継ぎたい、と勤勉であるが息抜きに読書をするのが満。毎日運動を欠かさず行う、実に健康的な日々を送っているのだ。
運動の内容はともかく。

「赤城の趣味って無いのか?」

「趣味。あぁ、家に飾ってる刀とか槍とかの手入れかしら。」

迂闊な神尾の質問に、桃城はとうとう固まってしまったのだった。

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