螢惑は芥子に眠る | ナノ
至って事実だが


重くはないが軽くもない、テニスバッグを肩に掛けると神尾に向かってサクサクと歩き出す満達。
杏は女子テニス部だから解るが、つい最近マイバッグを持ち歩きだした満に桃城は思わずパワーリストを確認してしまった。

「…桃城君。私は常日頃教科書を詰め込んだカバンを持って走っているんだけど不思議なの?」

「それ聞いて安心した。赤城って案外真面目?」

「…一応二年生では学年主席を維持してるわ。医者の跡継ぎなんだから当たり前じゃない。」

おどろおどろしいどころか煌びやかな経歴。履歴書は勿論、内申書も無理なフォローを入れる必要など全くないのだ。
単に、内訳を知る人間がちょっと嫌な気分になるだけで。

「…赤城の母ちゃん、医者なのか?」

「我が家は代々医者の家系だけど?死んだお爺ちゃんもお婆ちゃんもお父さんも全員。」

「赤城さんすごーい!頭も良くて運動も出来て完璧じゃない!」

何も知らなければ、それだけで片付く。だが満の悪魔すら血祭りに上げかねない手腕を知る桃城は心中複雑だ。
言ってはいけない、と本能が警鐘を鳴らす。

「勉強は好きだから。テニスは赤也との付き合いで始めたんだけどね。」

「…何で三年生は止めなかったんだ。」

「私を知って止められるとでも?もれなく赤也が駄々をこねるわよ。」

ぐうの音も出ない舌鋒に、桃城は挫けた。立海学年主席と、青学成績まぁまぁでは歯が立たない。
満はやるからには完璧を目指したいが、異常な筋力の為出来ない都合は伏せた。と言っても、王者立海のエースと互角以上にプレイ出来る満。
余程の猛者でなければ勝てる見込みはない。

「赤城…何で杏ちゃんと一緒にストテニ?」

「私が声をかけたのよ。熱心にラケット見つめてたから。」

血は争えないテニスバカ。駆け寄った神尾に、やれる人、しかも女の子を誘って何が悪いと言わんばかりである。

「じゃあ桃城は?」

「ちょっと前に赤城関係でいざこざが、な。」

「そうね。何も無くてよかったわ。」

いや思いっきりTシャツ切られたんだけど。とは言えない桃城。満の手は門外不出にして神業と呼べる代物である。
満はワザと、自分に何も無くてよかったと言わなかった。

「前にニュースで青学の女子が立海の女子んちにストーカーみたいな嫌がらせしたやつ?」

「そう。赤也が捕まえてくれて安心したわ。郵便受けに生ゴミとか入れられてお母さん半狂乱になりかけたから。」

危うく怒り狂って犯人の命が危なかったのだ。嘘ではない。

「…赤城の母ちゃんが半狂乱に…!」

満の母であり師である人間が半狂乱、と想像した桃城は気分が悪くなった。

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