螢惑は芥子に眠る | ナノ
成績優秀スポーツ万能
補足説明を聞き、杏は深々と感嘆の息を吐いた。
神尾をも凌ぐ健脚、それだけでも桃城が恐れるには充分な要素だ。更に赤也と互角に打ち合える能力は驚異的でしかない。
「もしかして、試合の時は手を抜いていたの?」
「うん。本当は本気でスポーツをしちゃいけないってお母さんにね。」
「お母さん!?赤城の母ちゃん知ってんの!?」
苦笑していた満はさも当然のように、桃城を見て言い放った。こんな真似を、師がいない女に出来てたまるかと言いたげだ。
「だってお母さんとお婆ちゃん達に習ったもの。一朝一夕で出来る人が居たら拝んでみたいわ。」
満の冷ややかな目を見ながら、ギリギリの紙一重で命を繋いだ桃城。ジャッカルが満を必死で抑えこんだからこそ、今生きている。
顔が強ばるのも無理はないのだ。
「…桑原に有難うって伝えてくれ。メアド知らねえからさ。」
「はぁ。伝えましょう。赤也以上の相手じゃない限り本気になる事は無いと思うけどね。」
「満さんが本気にならなきゃいけない相手ってスッゴい強いわね。見てみたいなぁ。」
デタラメな守備範囲、ナックルサーブすら返す反射神経。女子レベルならあっさり全国で個人優勝を攫う未完の大器だ。
杏でなくとも、一度くらい見てみたいと熱望するだろう。
「だから、本気でスポーツをしちゃいけないって言われてるんだってば。慎ましく穏やかに学校生活送らせてよ。」
「つーか本気の赤城って怖くないのか?」
桃城のごもっともな意見に満は首を傾げた。
赤也とラリーをする際は必ず、平なり三年レギュラーなりが見張る。赤目になった赤也を引き剥がす為だ。危うく赤也の選手生命と満の命が、天秤に掛けられたから。
「聞いた事も無いわね。私はいつも赤也のラケット使ってたけど。」
知らないだけで、柳が畏怖を覚えた目は無意識の産物である。冷たく、凍てつかんばかりのこの世ならぬものを見るような満の目は、とても怖い。
「あ、いたいた杏ちゃ…桃城に赤城満!?」
ストテニで友達と打ってくる、と杏は事前に家族へ伝えていた。それで聞いた神尾がランニングがてら迎えに来たのだが。
異色にも程のある三人だ。派手な技こそ持っていないが、堅実な守備に相手のミスを誘うオールラウンダーと幸村をして称される満。ダンクスマッシュにジャックナイフと、豪快な技が際立つ桃城は神尾と色々因縁がある。
「桃城君、知り合い?」
「そう言う赤城こそアイツより足速いんだろ?」
「…今日はここまでにしてお喋りに行きましょうか?アキラ君も何か言いたそうだしね。」
杏の提案に、2人は頷いて片付けを始めた。
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