螢惑は芥子に眠る | ナノ
真実に近い嘘
にこやかに笑みを絶やさない満だが、いざ怒ると地獄の入り口まで案内される。それをつい先日、嫌と思う程味わった桃城は杏を信じらんねえ!と言わんばかりに見やった。
「…桃城君、見た事は言っても構わないわ。」
「橘妹!バカかお前!こんな危険物通り越した赤城を連れ回すとか考えなくても解るだろ!?」
「何よそれ、赤城さんを悪く言わないで!!」
良くも悪くも、中学生とはまだすぐに仲良くなれるお年頃だ。更に女の子同士の上、満は二年生で学年主席の才媛である。賢さをひけらかさず、謙虚な姿勢を必要に駆られて貫く満を悪くは思わないだろう。
「橘さん、桃城君。悪目立ちしてますけど。」
実に客観的かつ、冷静な意見に我に返る2人。
周りを見渡し、困ったように顔を見合わせた。
「…赤城。例の事は橘妹知らねえの?」
「知っていたら私が驚くわよ。知らない方が幸せだって解るかしら?」
「そりゃ、な。」
「例の事?赤城さん、何かあったの?」
居たたまれない、とコート横のベンチに2人を満は手招きした。それが恐ろしく映る事は…桃城だけが知っている。
満は杏の手を握ると、穏やかな口調で語りかけた。
「橘さん、青学三年生女子が立海の男子テニス部部員に捕まったニュースは聞いたかしら?」
「え?えぇ。何でも女子生徒宅にストーカーしていたとか。」
「その被害を、私の家が受けていたの。捕まえたテニス部部員は赤也。」
「え。赤城が捕まえたんじゃ無かったのか。」
「事実よ。」
自分に当たり障りなく、青学の痛いところを容赦なく抉る。赤城家の門外不出と言われてもおかしくない、禁忌の技は関係者以外口外無用だ。
満にとても都合のいいあらかたの説明を終え、聞き耳を立てていた人々を呆れたように満は見た。
「…そんな事が。」
「ごめんなさい、聞いても話しても楽しくない話題だものね。」
「赤城…間違いじゃねぇけどおかしくね?」
「内訳は部外者秘よ。と言っても…橘さんの学校の人だと思うけど、伊武君と神尾君は追いかけっこしたから、推察は可能ね。」
ころころと変わる満の表情からは、影など見当たらない。だが桃城と杏は満をガン見した。
「何やった赤城!」
「赤城さん神尾君より足速いの!?」
「落ち着いて。危ない事はしてないから。神尾君よりは速いわ。昔から鍛えていたし、最近はランニングもレギュラーとやるから格段に体力は上がった。」
これは如何なるデータを駆使しても、覆らない事実である。柳が断言したのだからと満は静かに説明を加えていた。
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