螢惑は芥子に眠る | ナノ
初心者だけどね
コートに立つ満と杏。傍から見れば無害な女の子だ。しかし、試合開始となって君臨するかのように、コートを占領していた玉林中の2人は愕然とした。
杏のショットはなかなか強く、満の守備範囲が広すぎてポイントが取れない。
「な、何者だ…!?」
「なぁ、あの赤のスコートの女の子…両腕にリストバンド付けてないか?」
普通なら、片腕だ。汗を拭う為ならば。
「…やりすぎちゃったかしら?」
「そんな事無いわ!赤城さんって凄い上手!」
パワーリストを付け、遠心力を利用したサーブは女とは思えない程重い。しかも走り回りながら、息は切れていないのだ。
「有難う。暑いからジャージ脱いでくるわ。」
常日頃レギュラーと同じ速さで走るだけではなく、登校も走る。更に母親とのチャンネル争奪戦と来れば、嫌でも体力は上がる。
ふわりとジャージを脱げばパワーリストが露わになった。
「やっぱり…基準を改めるべき?」
玉林のペアとは面識が一切無い。なので満は首を傾げながら、どこからが上手いのかさっぱり解ってない事に気付いた。
「赤城さーん!泉さん達待ってるわよー!」
「あ、ごめんなさい!」
軽快に走る満に、泉と布川は満を消耗させようと決めた。それが大いなる過ちであり、後悔を招くとは予想すらしていなかった。
「…勝っちゃった。」
「私もビックリよ。泉さん達、玉林中のレギュラーだもの。」
「玉林中?ごめんなさい、聞いた事が無いわ。」
満は神奈川だから、地区、都大会は全く知らないのが当たり前だ。増してや王者立海の救護要員。
詳しく説明しても解らないだろうと柳が判断した。間違いではない。
「神奈川だからね。そう言えば赤城さんって」
「あーっ!赤城!?」
杏が満の学校を聞こうとしたのだが、桃城の絶叫によって遮られた。当然、視線は満も含めて桃城に注がれる。
「あら、お久しぶりと言うには日が浅いですがこんにちは桃城君。」
「知り合いなの?」
「まぁ、少し。」
軽く会釈した笑顔の満に、顔色が見る見るうちに悪くなる桃城。杏が疑問に思って当たり前である。
「…な、何で立海の赤城がこっちでストテニ?」
「橘さんに誘われまして。基礎は先輩方に習いましたから大丈夫だ、とも言われましたから。」
確かに、おぞましい教育を受けた満ならば大丈夫と言える。更に、スポーツでは万年筆が光る事は無い。だが心臓によろしくないと桃城は言いたかった。
「赤城さん立海のレギュラーと打ち合えるの!?」
「あ、うん。彼氏はレギュラーだし。私は今年からテニス始めた初心者もいいところだけど。」
日本全国のテニスに励む中学生を、敵に回しかねないセリフだった。
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