螢惑は芥子に眠る | ナノ
蕾が開かぬよう
立海大男子テニス部は、休みが殆どと言っていい程無いので。杏を騙し騙し休みまで待たせる事になった。開業医の一人娘とは言え、幾らでも気軽に都内へ遊びに行ける地位ではない。
「久しぶり、橘さん。長く待たせちゃってごめんなさいね。」
「ううん、気にしないで。二年生だし引退はまだだから仕方ないわ。」
神奈川から都内まで、電車を利用してやって来た満と杏はすんなり会えた。
ちなみに、赤也は幸村と真田の猛反対に負けて来れなかったのだ。見たら絶対やりたくなるだろ、と。
そのフォローを満がやる羽目になったが、あまり気にしていない。
「でも、緊張するなぁ…ストテニってどんな人がいるのかしら。」
「極端に悪い人はいないから安心して。赤城さんのテニス、私も楽しみにしてるから。」
どこからが悪くてどこまでがいいのか、満はそこに不安を隠せない。その道のプロだから、本気になってはいけないのだ。表情も雰囲気も変わる、満の本気は立海で畏怖の対象。
「橘さんよりは下手じゃないかしら?」
基準は王者立海、女テニの練習も試合も見た事が無い満。下手なプレイヤーより遥かに上手い事を、全く自覚していないのだ。
「やってみなくちゃ判んないわね。行きましょ?休みだから混んじゃう。」
「うん。」
傍から、何も知らない幸せな人が見れば女の子2人が仲良く遊びに行く姿。道中も楽しげに会話をしていて不穏な影は全く無い。
しかし満は、きっちり装備をしているが…言わぬが花と言うものだ。
「わぁ…多いねぇ。」
「休みだからね。赤城さん穴場でも知ってるの?」
「ううん、ストテニは初めてなの。」
ストテニではない、立海のテニスコートに邪魔は絶対入らない。なので嘘は言っていないのだ。
「空くまで観戦してよっか?」
「そうね。」
ベンチに座る、杏と満。柳に頼まれる程観察力のずば抜けた満は、立海や青学とのあまりの違いに拍子抜けしていた。
「ここじゃあの2人、かなり上手いのよ。」
「へぇ…こんな感じなの。出突っ張りね。」
勝者はコートに残り、敗者は入れ替わる。二面あるのだが、ずっとダブルス専用コートに立つ2人は満からすれば下手の二文字だ。
シングルスは忙しなく入れ替わっている。
「赤城さん、私とダブルスやってみない?」
「いいわよ。後衛なら先輩に習ったから。」
守備範囲がデタラメと呼ばれる、ジャッカルから。満の異常な速さとスタミナを考え、柳が提案したのだ。83%で女子はダブルスを組む、と言われたから仕方ない。
手の抜き方は我流だが、満だから。
- 30 -
[*前] | [次#]
ページ:
メイン
トップへ