螢惑は芥子に眠る | ナノ
お年頃の女の子


新品のテニスウェアに、ラケットなどの道具。さしもの満とて、値段に軽く眩暈を覚えた。
母が買ってくれると言わなければ、年末のオークションに備えて貯めてきたお金が無に帰す。

「…スポーツ用品って思った以上に高いわ…。」

「満自分の買わねえからそう思うだけ。ウェア似合うじゃん。」

満が呻くように呟くも、赤也からあっさり言い切られた。部活動とは、金がかかって当たり前なのだ。

「有難う。でも立海レギュラージャージ私が着ていいの?」

購入した真っ赤なスコートに映えるジャージなどは自前なのだが、赤也の小さくて着なくなった立海レギュラージャージを渡された。有り難迷惑、と言うのが限り無く当てはまる。

「満部員じゃねぇし、着ちゃダメとか言われねぇからさ。…やっぱりデカいのか?」

心配するように満を見る赤也に、ダサいから着たくないとは言えない。しかしサイズは少し大きいが不自由するとは考えにくい。
満は苦し紛れの言い訳を仕方無く告げた。

「極端に大きくはないけどね…やっぱり王者立海のレギュラージャージって女が着てたら変に思われるじゃない。学校で打ち合う時はいいけど、橘さんとストテニに行くなら悪目立ちしたくないんだ。」

満なりの精一杯の妥協。お古の洋服を貰う事など未だかつて無く、対処に困るのだ。

「女テニの友達か?」

「立海じゃないけど都内で偶然、ね。赤也が使ってるラケット見てたら声掛けてくれて。印象は活発な人よ。」

「へー。俺もストテニ行きたい。満とダブルスとか楽しそうだし。」

立海の生徒だと教えていない上に、レギュラーが彼氏と惚気た満としては少々厄介だ。下手じゃないどころか王者立海レギュラー。
赤也と打ち合う時点で、満の能力がずば抜けていると言っているようなものだ。だがやってみたい、とは満も考える。

「草試合禁止でしょ?幸村先輩にせよ真田先輩にせよ却下しそう。…やってみたいんだけどなぁ。」

「あり得る…。」

リョーマとの草試合で、負けた上に鉄拳制裁を加えられた赤也には、耳の痛い話だ。反省は勿論したし、関東大会の屈辱もある。
パワーこそ立海レギュラーには及ばぬものの、スピードと判断能力はピカイチの満は練習相手に最適だ。しょっちゅう赤目になって止められるが、それだけ満が強い証拠でもある。

「…追々相談しましょ。お母さん晩御飯まだー?」

「もう出来るから手伝ってちょうだい。」

ウェアのタグを取りながら話していたのだが、一瞬にしてよくある会話に戻ったのだった。

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