螢惑は芥子に眠る | ナノ
背いたとしても


青学メンバーが、とうとう腹をくくって謝罪にやって来る。
日時は明らかにしていたので、立海三年も満に危険物を持たせない次善策を打てたのだが。

「シャーペン2本、万年筆1本、定規2本、コンパス1本、とどめにカッター!?」

「言っておくけどカッターは、持ち込みじゃないからね?落とし物。仕込んでなかったでしょう?」

スカートの裾、ウエスト、シャツの襟、取り出しやすい位置に仕込まれた凶器に見えない凶器の数々。使い手次第ではとんでもない事になると誰もが戦慄した。ボールペンだけは凶器にならないが、カバンの中身を想像するだけで嫌な汗が体を伝う。

「赤城。完全装備をした場合どれだけ武器を仕込めるんだ?」

「ナイフを含めると15ですね。冬服なら20を越えます。上着がありますし、袖が長いので隠しやすいですから。」

十徳ナイフだけではなく、奥の手である愛用武器。教えたところで変わらない、と満は言わないだけだ。
通常は持ち歩かないが、赤也不在のチャンネル争奪戦では毎回持ち出して使っているのである。

「…何の変哲もない文房具が今日ほど怖いと思った事は無いよ。」

「幸村君、それ全員思ってるって。真田の顔がいつも以上に堅いし。」

「だよな。プリント一枚でシャーペン切ったぐらいだから色々と何かやれそうだし。」

「ジャッカル君、やれそうではなくやりそうだから言わないで下さい。」

とことん王者に怖がられて信用皆無だが、実際やれるので満は何も言えない。厚紙なら、投げて肌を切るぐらいやってのけるのだ。

「青学の連中が顔面蒼白で来そうナリ。」

「赤城、もう武器は持っていないな?」

「カバンの中にいつも使っている文房具などはありますけど、所持はしていません。」

「うむ。カバンは俺が預かろう。」

「…赤也。何でこんなに私が信用されてないの?青学の皆さんは謝りに来るんじゃなかったの?」

「だよな。満は攻撃しなきゃ何もしないって言ってるぜ?」

半ば奪われるようにカバンを真田に渡しながら、バカップルは不思議そうに首を傾げた。満が喧嘩腰になる理由があるから、三年は厳戒態勢なのだ。

「攻撃はされたけどちゃんと警告をしてるのに。」

「…例の敵意丸出しってランニング中言ってたやつか?」

「はい。本当は禁じ手なのですが百聞は一見に如かずと思いまして。」

「禁じ手があるのか?」

青学メンバーがやって来るまで、流血の掟について説明を続ける満であった。やる気があるなら敵意を見せずに仕留める手段、それを骨の髄まで叩き込まれたからこそ。

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