螢惑は芥子に眠る | ナノ
夕影鳥
幸村、柳、赤也、満の意見が一致し満による公開処刑はレギュラーのみが見る事となった。だが、真田は自身への罰として満にまで鉄拳を要求したのだ。
「あの、真田先輩?私は殴り合いはしませんよ?それに部員でもありませんし、怖がっていらっしゃる先輩達がとても気の毒なのですが。」
性別と体格を考えれば、満は力が強い方だ。速さを求められる技を使う以上、それなりの筋力は嫌でも身に付く。
下手をすれば満の爪すら武器になるんじゃないか、と柳が懸念するのも仕方がない。家業の問題できっちり切られているし、そんな事は有り得ないのに信用されていないのだ。
「それでは納得出来ん!」
「…赤也、どうしよう?」
困り果てた表情を浮かべ、小首を傾げる。今まで傍観に徹していたから、まさか自分にまで要求されるとは露ほども考えなかった。
「赤城、殴り合いはやらねぇんだろ?そっちのが安全だろぃ。」
それはそれで何だか嬉しくない言葉だが、満は弁解出来ない。刃物の扱いはピカイチの女子だ。
「満が殴ったぐらいで副部長がなんかなるとか無いって。」
「…真田先輩になんかなって欲しいの?殴り合いはしないけど、赤也を一撃で気絶させるくらいなら出来るのよ?」
瞬時にコートが静まり返った。
殴り合いをしない事は掛け値なしの事実だ。急所へ一撃見舞えば、殴り合いにならないのだから。
「…そうでしたね。」
衆人環視の中、幸村たっての願いで赤也の暴走を満がかなり荒っぽいやり方で止めた。その事を綺麗さっぱり忘れていたのだ。
「赤城、骨折には至らないのか?」
「柳先輩…私は怪力ではありませんよ。人為的に骨折させるくらいなら関節を外します。」
「なら問題なか。真田、ちょぉ屈みんしゃい。赤城に二度制裁されるんじゃ、徹底的にやられる記念すべき第一号!」
どこか楽しげな仁王だが、自分もまた満による制裁が待ち受けている事から目をそらしている。極めて過激な赤也や、幸村すら哀れむような目で真田を見てしまった。
満はやれやれ、と言わんばかりに真田へと歩み寄る。
「真田、後はちゃんとフォローするからな…ジャッカルが!」
「俺だけにすんな!赤城、気絶で終わらせてくれよ!?」
「…何を期待されていらっしゃるのですか?真田先輩、参ります。」
「うむ。」
素晴らしくいい音を立てて満の拳が真田へ入った。
「流石赤城さん。容赦ないね。」
「とりあえず湿布で頬を冷やしましょう。後は終了後ですから。」
真田の手当てをしつつ、これからが本当の制裁だと笑顔で告げる満に全員が言葉を失った。
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