螢惑は芥子に眠る | ナノ
戦々恐々の王者
関東大会に負けた立海。幸村提案の恐怖の制裁が待ち受ける事に、立海は気が気でなかったのだが…青学もまた、勝って良かった!と素直に喜べない現実が立ちはだかっていた。
思わず顧問の竜崎が首を傾げる程、異様な雰囲気なのだ。
「…勝ったのは嬉しいんだけど…赤城さんが…。」
「幸村と何か話しているようだからな…。」
乾と大石の視線の先。幸村と満が真剣な顔で話し合っているのだが、嫌な予感以外しない。
それは杞憂に終わるが、さっさととっとと帰りたくなるのは、本能的なものだろう。
「本当に負けやがったね。赤城さん、試した文房具教えて?」
「皆様がご存知ない物ですと、分度器や硯…は文房具に入りますかね?美術や技術の授業に使用する彫刻刀や、割れば使えるパレットなどもあります。」
「…パレット割れば使えるの?」
「はい。大概プラスチックですから、簡単に割れますし軽いです。」
美術の授業があった日も、気を抜けない。幸村は真剣な表情で満に提案をした。色々と聞き出す機会でもあるからだ。
「紙も使えるんだから、消しゴムとか?」
「切るのは難しいですね。固めの消しゴムを小さく刻んで投げるのでしたら、不意打ち程度です。致命傷には至りません。」
「じゃあ消しゴムは決定。シャーペンも…あ。芯は使えるかな?」
「流石に脆いですね。投げる事で多少切り傷を作るのでしたら、不可能では無いと思います。」
お互いに至って真面目な話をしているが、聞かされる方は何の話か解らない者と何を使われるか戦々恐々としている者に分けられる。解らない者は、レギュラーではない立海部員。
「基本的に投げるんだ?なら連帯責任で全員実験台もいいかな。」
「バリエーションは見込めませんよ。それに真田先輩の鉄拳制裁を前にするか後にするか、そして真田先輩に誰が制裁を加えるかと問題はあります。」
「それは赤城さんに…あ、そっか。真田とパワーリスト同じ重さでも基礎が違うから、あんまりダメージは無いか。」
「はい。私は殴り合いを小学校低学年以来していませんから。殴り合いと言うよりは、ひっぱたき合いでしたけど。」
殴り方の手加減は当然、更に身長差の問題がある。
満は切る事に特化しているのであって、殴り合いは殆ど知らないのだ。女の子のひっぱたき合いレベルしか知らないのだから。
「真田に殴らせてから、赤城さんで。」
「少し慣らさなければいけませんね。試した事が無いので目測を誤ると大変ですから。」
肌を切るならまだしも、その上を行く被害を出す訳にはいかないのだ。
買い物に行かなければ、と満は暇を作る事にした。
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