螢惑は芥子に眠る | ナノ
知る人ぞ知る


海堂の忠告を、はっきり言ってマトモに受け取らなかった不動峰ペア。満は足がやたらと速いだけの少女としか認識していないのだ。だが、引っ掛かる言葉が多々あるので、気になる。

「長生きのコツとか化け物が人間の皮被って生きてるようなモンとか…惚れた奴をそんな言うか?」

「どうでもいいだろそんな事。神尾はいちいち気にしすぎなんだよ第一まだ関東大会終わってないんだからそんな事考えるヒマあるなら練習しろよな。」

伊武のごもっともな意見に神尾は肩を竦めるが、満を見た海堂の顔色が急変した事をやはり気にしていた。あれほどまでに自分を追い詰めたのだから、並みの精神力では無いとよく知っている。
それがとてつもない恐怖から根差している、とは考えられる筈も無いのだ。

「…やっぱ気になる。俺の後ろに立ったの見えなかったんだし。」

「神尾より足が速いだけだろ。鬼ごっこみたいなのは普通に見えたけど速かっただけで別に何かやる訳じゃない。」

伊武の想像を遥か斜め上に行く「何か」をするのだが。立海レギュラーへの文句も忘れ、2人は帰路に就く。そして自宅で、万年筆ブームを巻き起こした立海女子生徒の名と同じ名だと思い出したのだった。

「…深司。コレって偶然だよな?同姓同名の他人っているよな?」

「学校まで同じで同姓同名の方が珍しいだろ。でも関係ないんだから別に気にする事でも無いし会っても大会だから敵じゃん。」

そうと決め付けるには、満の行動範囲が広い。知る由もない彼らには、酷な話だが。
電話を片手に難しそうな顔をしている神尾だが、伊武には見えなくて当たり前である。

「ま、そりゃそうなんだけど…息切れしてないのがムカつくんだよ。マムシみてぇで。」

「俺に言っても何も変わらないだろ。そんなにスピード比べしたきゃ会った時にやればいいだけだし赤城だっけ?あいつアップも何もしてないの解ってんの?試合見てただけなんだからさ。」

「…そうだった。」

呻くように呟く。自分達は試合を終え、ダウンをした上で橘の応援をしていたがものの数分である。季節柄体はそう冷えない。
よって、何もしていない満は不利な状況で不可能ではないと言い切り、神尾を見事捕まえたのだ。例え神尾達から見て、満が本気を出していたとしても驚異的な事なのである。

「スピード比べするにも神尾が確実に負けるだろ。あいつが本気のコンディションで走れば今日より速くなるわけだから。」

「スタミナなら、話は変わるだろ。」

不機嫌そうに話す神尾と、ブツブツ呟き続ける伊武の本日の通話は結構な長さだった。

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