螢惑は芥子に眠る | ナノ
風が呼ぶ嵐
赤也が騒ぎ出すだろう、と足早に立海レギュラーが集合する場所へ向かう2人だが、仁王は思い出したかのように満を見た。
「赤城、今日は何持っとるんじゃ?」
「万年筆は持っていませんが、ペンを2本と…ポケットに入れたままのピンセットとソーイングセットですね。」
ペンは勿論、凶器にならないものだ。
ピンセットは消毒に使ったものを入れっぱなしにしていて、ソーイングセットは試合などで解れやすいレギュラーのユニフォーム直しに使用する。
「…海堂が居って良かったぜよ。妙な誤解を広められたら赤也にやられそうじゃき。」
「妙な誤解、と申しますと…私が仁王先輩と赤也に二股などですか?」
「当たりじゃ。あいつらは赤城の怖さもバカップル加減も知らん。男は考える事が解りやすいナリ。」
満もそこは女の子、男心は解らなくとも女心は理解出来るので首を竦めた。どちらも似たり寄ったりで、行動が陰湿な女子より対策が練りやすそうだと判断したのだ。
「立海では有名な私の悪評も全くご存知ない様子でしたからね。鬼ごっこは見ましたか?」
「話は聞こえんかったがやっとった事は見たぜよ。神尾じゃったか?あいつの後ろに回った時は焦ったんじゃ。一撃で赤也を気絶させるからのぅ。」
「あんなにギャラリーがいる場所でやりませんよ。尤も、私の仕業だなんてごく限られた方しか考えないでしょうが、騒ぎは面倒です。」
「それが救いじゃ。赤城は清く正しく美しく、と思われとった方がよか。」
ポンポンと軽く満の頭を叩き、仁王は苦笑した。こうしていれば、本当に優秀な後輩なのだ。
「満ー!どこ行ってたんだよ!」
「ごめん、不動峰の神尾君と伊武君に呼ばれてちょっと話をね。走っただけで後は何もしてないわ。」
不機嫌も露わな赤也を、穏やかに宥める光景も一瞬の平和だ。
「ホントにホントか?」
「あのねぇ…。赤也のラフプレイ笑って見てるのがおかしいとは言われたけど私は赤也が好きなのよ?」
「…ふーん…どっちが?」
「最初に言ったのは髪の毛サラサラの伊武君。」
「また満に絡んだらそいつ潰す…。」
トーンダウンし、唸るように呟いた赤也は満の手を引いて歩き出した。仁王は何もない事を、心から祈るしか無かった。
「あ、やっと帰って来た。細かい事は柳に言って?バスに間に合わなくなるから急いで。」
「はい。赤也、手伝ってくれる?」
「よゆー。だから晩飯食いに行っていい?」
「ゲーム持って来ないならいいわよ。」
先程までの敵意など、欠片も無く帰り支度をして早々にバスへ向かった。
柳が頭痛を後に覚えたのは言うまでもない。
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