螢惑は芥子に眠る | ナノ
蛇も恐れる猛毒の


穏やかに、とても平和的な形で恐怖の鬼ごっこは終了した。本気の満が刃物を―いや万年筆片手でも―持っていたら赤が舞うのだから平和的である。

「さて。個人的な用件で申し訳ないのですが、そろそろ赤也が戻る時間ですので行かなければならないのですが、宜しいですか?」

笑みを浮かべながら首を傾げる満に、2人は顔を見合わせた。
最速を謳われる神尾を凌ぐ足、乱れてもいない呼吸に驚いている。

「神尾に…な、なんで立海の赤城が一緒にいるんだ…?」

試合が終わり、クールダウンにランニングと通りかかった海堂が目を見開いた。
よく考えなくとも奇妙な組み合わせではある。だが海堂が懸念しているのは、神速のナイフ捌きだ。

「お久しぶりです、海堂君。…赤也が来るのも時間の問題ね。」

軽く会釈する満に、ますます解らなくなる不動峰ペアだった。
王者立海と、都大会で当たった青学。接点が無いように思えたのだ。

「…赤城。そいつらが何かしたのか?」

「いいえ。私が手を下す必要性は皆無です。そんなひっきりなしに振り回す趣味はありませんよ。」

運動により、顔色が良かった海堂の血の気が一気に引いたが満は涼しい顔だ。

「マムシ…知り合いなのか?」

「てめぇらには関係ねぇ。赤城、さっさと立海んとこ行け。…俺は注意だけ、する。」

「…解りました。海堂君が見た事は、お話しても構いません。人の口に戸は立てられませんから。それでは失礼します。」

するり、と満は立海レギュラーの集まる場所へ向かいながら恐怖を残した。

「仁王先輩、そろそろ戻りましょう。その髪では見つかって当たり前です。」

「…バレとったか。ま、ペンが出なかったんは安心したぜよ。」

人気はそれなりにあるが、銀の髪は非常に目立つ。のんびりとした様子でフェンスに寄りかかっていた仁王は、肩を竦めながら満の傍へ歩み寄った。

「海堂、余計な事は言わんが長生きのコツじゃ。」

「分かってんだよ。」

ひらひらと手を振る仁王を睨み、海堂は息を吐いた。余計な手出しだったかもしれない、と心で後悔しているが経験から止めずには居られなかったのだ。

「…仁王にお前に切原、あの女何者だ?振り回すとかペンとか訳わかんないし手を下すってどういう意味だよ。日本語解るように話せよな。」

「赤城は、はっきり言って化け物が人間の皮被って生きてるようなモンだ。死にたくなけりゃこれ以上関わるな。注意は赤城に言った通りしてやったぞ。」

「マムシが化け物呼ばわりする女ぁ…?オイオイ冗談は止せよ。仁王もお前も惚れただけだろ?」

仁王が聞いたら凄まじい勢いで否定するだろうが、判断材料が彼らに与えられていない。
思春期の中学生なのだ。

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