最初は成り行きだった。
利用すればいい。利用し合おうって。
でもいつからかそう思わなくなった。ヒソカさんが欠かせない、大事な人になっていた。命の恩人だ。助けられている。守ってもらっている。
感謝してもしきれないぐらいに、大切な人。…ヒソカさんがどう思ってるかはわからなけど。
わたしは普通の家庭で育って、普通の学校に通ってて日本は安全だから殺しなんてドラマや映画、物語の中でしかみたことはない。
人殺しは怖い。すごく怖い。
でも、今日森の中で襲われて殺さないと、死ぬ。そういう状況に出会って自分の力で、念で始めて生き物を殺して
…怖かった。
血が出て、倒れて動かなくなって。
柔らかい肉の感触がして生温い血が手に触れて、気持ち悪くて。でも、どこかでほっとした自分もいて。生きてて、よかった…って。
「わたし…は」
「……」
「殺すのは、怖い…です」
「うん」
「でも殺されるのも、怖いです」
「だから殺すの?」
「………そう、ですね」
そう、死にたくない。
生きたい。その一心だった。
そう思ったら勝手に体が動いていた。
「わたしは…」
「……」
「わたしはヒソカさんも、イルミさんも好きです」
「……」
一瞬だけほんの少しだけイルミさんの眉がぴくり。と動いた。そのまま続ける。
「わたしが修行して、強くなったのは…守りたいから、です」
「守る?」
「…はい。自分を、人を…守りたい…から」
「その為に、知らない他人を殺してもいいの?」
「…っそれは!」
「そういうことだよ。ゆあが言ってるのは。その覚悟がないなら、早くヒソカや俺から離れた方がいいよ」
まるで針で心を刺されているかのようにグサグサとイルミさんの言葉が刺さる。黒い瞳がわたしの目を、心を射抜く。
なにが正しいのか、なにが悪いのか。
殺すのが悪なのか、殺されるのが正義なのか。
わからない。きっと誰にもわからない。
黙っているとイルミさんが先に口を開いた。
「いま、ヒソカは仕事に出てる。」
「………」
「前の仕事で邪魔が入って、ターゲットを逃がしたらしい。」
「………」
「そのせいでターゲットを保護しているマフィアから狙われてる。」
「…それで、ここに」
「いや。ここにいるのはゆあの為」
「わたし…の?」
そうだ。
わざわざホテルを二つ借りたのもこんなに安全なところに身を隠してるのもわたしが、いるから。わたしが弱いから…
「たぶん、囮の方のホテルはもうバレてる。あさってぐらいには大勢引き連れてヒソカを殺しにくるだろうね。」
「…そんなっ!」
「ヒソカはわかっててホテルで待ち伏せしてる」
「…!」
「返り討ちにして、ターゲットの場所を調べるつもりなんだろうね」
「………っ」
危ないことをしてるのは当たり前なんだ。ヒソカさんだってイルミさんだって死ぬか生きるか。殺すか殺されるか…そういう状況で戦ってるんだ。
「で、実はそのターゲットの場所を俺が掴んだ。」
「!!」
「ヒソカにはまだ伝えてない。」
「……イルミさん」
「…なに」
「わたしに、わたしにできること…ありませんかっ?」
ヒソカさんは、戦っている。
それは自分の欲を満たす為かもしれない。
でも、わたしも少なからず関係がある。だったら、守られてばっかりは…いやだ。わたしの勝手な思い込みでも。何かしたい。ヒソカさんの為に。守りたい。わたしはその為に強くなった。
「殺しだよ?」
「……わかってます」
「人を殺すんだよ?動物じゃない。」
「……わかってますっ!」
「甘い考えでそんなこと言ってるんだったら「甘くなんてっ!!!」
思わず大きい声で叫んでしまった。イルミさんが口を閉じる。大きな声を出してしまったことを少し後悔するが、気持ちは変わらない。
「…人の命を、甘くなんて考えてません。」
「……」
「…守られてばかりはいやです」
「ヒソカはそんな風には思ってない」
「…それでもいいんです。」
「……」
「わたしが勝手に思ってるだけです。」
ヒソカさんにわたしを守る。なんて気持ちはきっとないだろう。つまらなくなったら殺す。そう言われている。わかっている。それでも、そんな風に思われていてもヒソカさんが大切なことに変わりはない。
「お願いしますっ」
「………」
「イルミさん!」
「…いいよ」
「…っえ」
だいぶ悩んだようだが、
イルミさんは一枚の紙を机に置いた。
「ターゲットの情報」
「!」
「もちろんゆあ一人では行かせない。俺も行く。」
「…はい」
「俺が無理だと判断したら、その時点で気絶させてでも連れて帰る。」
「……はい」
もう一度、確認するかのように聞いてくる。黒い瞳がわたしの目をみつめてきた。わたしも見つめ返す
もう決めたんだ。迷いはない。