くろあか | ナノ

 十七話 わたしは




「んーおいしいです…!」
「はいはい」
「生きててよかった…」
「大袈裟」

誰のせいで死にかけたと…!喉まで言葉がでかかったけどごはんを食べてるときに争いごとなんかしたくない。オムライスをかきこんで一緒に言葉も飲み込んだ。

「大変だったんですよ!」
「でも一日で帰ってこれたのはすごいよ」
「…えっほんとですか?」
「うん」

…無我夢中だったからなあ。走って走って…ほんと大変だった。イルミさんに褒められてちょっと嬉しい。いやいやでも女の子を山に放置とかそれってどうなの?!いろいろと!

「ほら、食ったらちゃんと薬塗っておけよ」
「あ、ありがとうございます!」

マスターさんが薬と包帯をくれる。あちこち傷だらけだった。シャワーがしみて痛かったし足も痣だらけ…。

「ごちそうさまでした!」
「おう」
「片付けはわたしやりますね!」
「頼む」

食べ終わったお皿を片付けて台所へと向かう。

「ゆあ」
「はい?」
「それ終わったら俺の部屋きて」
「はーい」

そうとだけ言うとイルミさんは上へとのぼって行ってしまった。…なんだろう。修行かな?もう散々だけどイルミさんの言うお仕置きがまだ終わっていないのかもしれない。待たせて怒られるのも怖くて早めに片付けを終わらせて向かった。



―コンコン… 「あの…」

「入って」
「おじゃまします…」

イルミさんの部屋に入るのはこれで二回目だった。猫になっていた時だからほとんど覚えてないけど。イルミさんはソファーに座っていたのでソファーに近寄る。

「座って」
「はい」

言われるままにソファーに座る。
…なんだろう、ちょっと緊張するなあ。

「今日の修行、どうだった?」
「えっと…死ぬかと思いました。」
「あの森、たくさんの猛獣が出たと思うけど。」
「熊や、狼みたいなモンスターに襲われました。」
「殺した?」
「…………はい」

いつも通りの無表情で言われて一瞬、言葉につまる。でも…もちろん嘘はつけない。

そう。襲われて。殺した。

たくさん。でも、殺さなければ自分が殺されていた。死んでいた。…なんでこんなこと聞くんだろう。

「どうだった?」
「……どう、って」
「殺したんでしょ?」
「…はい。殺し、ました」
「どう感じた?」
「……今、冷静に考えれば嫌です。殺すのは。」
「…」

イルミさんは黙って聞いている。
ひとつひとつ絞り出すように続けた。

「…でも、あの時はそんなことを言ってる余裕も、感じてる余裕もなくて…ただ、殺さないと…わたしが殺されるっ…ってそればかり、で」
「それは正しいよ」
「…でも」
「ゆあは、俺とヒソカのこと。どう思ってる?」
「どう…?」

イルミさんの言いたいことがいまいちわからずに聞き返す。黒い瞳は相変わらず何を考えているかわからない。

「俺たちは、人殺しだよ」
「………知ってます」
「知らないよ。ゆあは。」
「………」
「ゆあは人を殺したこと、ないでしょ」
「…はい」
「俺もヒソカも、たくさん殺してる。」
「………」

そうだ。イルミさんは暗殺者。ヒソカさんは仕事もそうだけど、強い人と戦うことに異常なまでに貪欲で。マスターさんも言っていた「殺人狂」って。

「俺はゆあがなんでヒソカや俺と一緒にいるのか、不思議なんだよね」
「…っそれ、は」
「ああ、記憶喪失だっけ。確か戸籍もないんだよね」
「…はい」
「でも、ゆあだってもうわかってるだろ?力をつけた。いつでも逃げ出そうと思えば逃げ出せる。今だってヒソカは仕事でいないんだ。機会はいくらだってある。」
「……」
「それなのに、なんで?」

ぐるぐるとイルミさんの言葉が頭の中でまわる。



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