その後ろ姿を見つめていたマスターははあ、とひとつため息をついた。
「記憶喪失…ねえ」
ゆあはそういっていたがたぶん違うんだろうとなんとなく勘みたいなもので思う。
ゆあはテレビなどをみていても有名人や世界行政、歴史、偉人を知らない。地名は知っていてもそこがどういう街かそういうことを全く知らなかった。
記憶喪失でそういった記憶を忘れてしまう場合もあるかもしれないが
「あいつ、嘘下手くそだからなあ」
記憶喪失、といったとき遠くをみるように一瞬ボーっとしたのを見逃してはいなかった。
まあこちらからは特に聞く気もない。心を開いてきてはいるようだし、そのうち向こうから話してくるかもしれない。
ヒソカなんていう戦闘狂で変態が連れてる女だからどんな奴かと思ったがゆあはこちらがびっくりするほど普通だった。小さなことで一挙一動して笑って、怒って、泣いて、喜んでどこにでもいるような女の子で
「放っておけない、というのはわかるなあ」
ヒソカが殺すわけでもなく面倒をみて育てているのは不思議だったがゆあにはなにかそういう不思議なオーラがあるのはなんとなくわかる。
「ま、俺は見守るぐらいしかできねえからな」
もし、ヒソカがほんとに殺すとなってもどうする気もなかった。そういうものなのだ、自分がいる世界とは。
「ゆあには…重すぎる世界だろうな」
あの子に人が殺せるとは思えない。どうかせめて、そういった道を選ばないでいてほしいものだ。と願うしかなかった。