くろあか | ナノ

 十話 走る




「おはようございます!」
「お、ゆあか。おはよう」

マスターさんに挨拶をするとすぐに返してくれた。最初は少し避けられていた気がするがいまでは修行の話しやヒソカさんの愚痴を聞いてもらったりしている。

ヒソカさんには話せないこともあるし、ただでさえこの世界での知り合いがいない。数少ない話し相手で、わたしの癒し!


「ゆあ、買い出し頼んでもいいか?」
「はい!なに買ってくればいいですか?」
「食パンとトマト、ハムとチーズを頼む」
「はーい!えーと、8時前には戻りますね!」
「ああ、頼む」

たまにこうやって買い出しを頼まれることもある。なんだか信用してもらえてるような気がして嬉しい。

「いってきまーす」
「夕方にはヒソカ戻ってくるらしいぞー」
「はーい」

走り出しながら返事を返す。今日は晴れているが雲もあってそこそこ過ごしやすい気温だった。走りながら今日は修行どうしようかなーと考える。


最近は修行の内容もハードになってきた。最初は組み手に始まり、ヒソカさんのトランプやナイフなどをひたすらよけ続ける修行とか。

絶、円などを使った隠れんぼに鬼ごっこ。ナイフの扱い方を教わったり音を立てないで走る方法や戦うときの自分のくせなど直してもらったり。

ヒソカさんの教え方はめちゃくちゃのようでわかりやすい。的確に指導してくれるから自分がどんどん上達してるのはわかる。

「(…どんどん一般人離れしちゃうなあ…)」

強くなりたい。という覚悟はもちろんある。だから毎日の厳しい修行だってこなしてる。

「(でもこれからどうしよう…)」


元の世界に戻りたい。
だけどそれはできるの…?

こっちの世界で暮らしていく、のも考えてみたがまだ15歳。こっちの世界の戸籍なんて存在しないし学校にだって行ってない。そんな人を雇ってくれる企業なんてない。


「(ヒソカさんと同じ…殺し、を仕事に…)」

ふるふる、と頭をふる。それならば可能かもしれないが、それはなるべく避けたかった。ヒソカさんのことは恩人と思っているし、大切な人だ。たとえ人殺しだとしても。

あの日、ヒソカさんと出会った場所であったことはいまでも鮮明に覚えている。辺り一面の赤い血。楽しそうに笑うヒソカさん。動かなくなった人。

人殺しは怖い。殺されるのも、殺すのも怖い。だからわたしは力をつける。もっと強くなってヒソカさんに殺されないためにも、生きていくためにも。

はあ、とため息をついたと同時に街に到着した。そうだ、買い出し!マスターさんに頼まれていたのを思い出して暗い気分をごまかすようにパン屋へ走った。




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