「………」
カルトちゃんは答えなかったが沈黙と少し赤くなっている目元が事実を物語っていた。
「…カルトちゃん、隣いい?」
「………」
「お邪魔するね」
少しだけびくり、と肩が揺れてそれがなんだか痛々しくて触れたら逃げ出してしまいそうで、壊れてしまいそうで、少しだけ離れて座った。
「…ちょっと寒いけど大丈夫?」
「………」
「私の上着、貸そうか?」
小さく首を振られた。
「もう体は平気?」
「………」
「冬も終わるね」
「………」
「ここへ来てから大分経ったけど、あっという間だったな」
「………」
カルトちゃんからの反応はない。それでも思いついたことをぽつり、ぽつりと話していく。ゾルディック家に来る前の街の話。バイトしていた喫茶店の話。
だんだんと話すことがなくなってきて誤魔化すようにうーん、と伸びをする。空は暗く、まだ朝は来ない。
「なんであなたは…」
小さな声でカルトちゃんが呟く。
「僕に関わろうとしてるんですか…?」
「心配だからだよ」
「…」
こちらを見つめるカルトちゃんが困惑しているような、理解できないと言いたげな表情に変わる。
「…ゾルディック家と私は何にも関係もないし、関り合いもない。他人だし、私は他所から来た居候でしかない」
邪険にする人もいれば、妬む人もいる。疑う人もいれば、無関心な人もいる。一度ゾルディック家の為に働いたからと言って、それがすべてなくなるわけじゃない。
部屋から出てすぐに会ったメイドのように態度が変わる人もいれば、ゴトーさんのように変わらない人もいる。
「でも、私はゾルディック家の人間だからとか、余所者だからとか、そういう見方って…ちょっと出来なくて。
イルミさんは、イルミさんだし…カルトちゃんは、カルトちゃんとしかみれない。こうやって話してて、カルトちゃんも私にとって大切な世界の一部だし、大切な人だから」
「大切?」
「大切なんだよ」
カルトちゃんに触れようとして手を伸ばす。でも目をそらされてしまって、なんだか拒否されたような、怖がられたような、壁のようなものを感じて手を引っ込める。
「私ね、お父さんもお母さんももう居なくて、友達も居なくて、家もなくて……信じられないような話だけど、私、この世界とは別の世界から来たんだよ」
「別の…?」
「そう。なんて言えばいいんだろうね。私もよくわかってないんだけれど…気付いたら知らない場所、知らない言葉、知らない世界に居て…でもある人に拾われて…死ぬはずだった命を救ってもらって…生きていけるように力もくれて…」
変態で、変なメイクをしていて
殺人鬼で、でも強くて優しくて
「この世界になかった私の居場所をくれた」
「……居場所」
「イルミさんも、カルトちゃんも、私の数少ない知り合いで、大切な人なの」
「………」
「だから、少しでもいいから力になりたい。これはね、偽善とかじゃなくって…私の為なんだ…私の居場所を守るための…ごめんね」
カルトちゃんの目を見て、さっきは引っ込めた手を伸ばして小さな手をぎゅっと握りしめる。その手はあまりにも小さくて冷たくて力を入れれば折れてしまいそうで
「僕は…」
カルトちゃんは震える手で
私の手を握り返した。