ガサ…ガサ…
修行で見慣れてしまったゾルディック家の森をのんびりと歩く。これが庭だというから驚きだ。
木々は整えられていて、あちこち見たことのない植物が生えていたり綺麗な花が咲き誇っていたり…修行ではなかなかじっくりとみないそんな風景を眺めつつ散歩を楽しむ。
ひんやりとした夜風が心地よい。
ヒソカさんと別行動をして、ゾルディック家へとやってきてからいつの間にか季節は冬から春へと移り変わっていた。この世界へときてからも何も変わらずに時間は過ぎていく。
(また明日から修行…頑張らないと…)
文字も読めるようになった。書けるようにもなった。世界のことも少しずつ学んでいる。戦う術を身につけて、人を殺す術を学んだ。自分を守る力と、大切な人を守る力。
この世界で生きていくためにはそれでもまだまだ足りない。わたしは弱いし、一人では何もできない。守られてばかりで助けたと思っていても結局は助けられている。
まだまだ中途半端な強さ。人を殺す事に対する意識。戦いに対する自分の気持ち。
(わたしは…人を殺すのは辛いとそう思いながらも、ヒソカさんやイルミさんを否定したくなくて自分の気持ちを騙して…どこかで闘うのが楽しいと…思っているのも誤魔化してる。)
わかっているのだ。
自分のことだから。誰よりも。
美術館で幻影旅団と戦うと聞いた時に、どんな強い人達と戦えるんだろうか。と喜んだ自分が居たことを。
偽物と戦い、あっさりと倒せてしまってガッカリとした自分が居たことを。最後に対峙した黒いコートを着た強いオーラの冷たい殺気をした人と戦ってみたい。と思ったその気持ちも。
(わかってるけど…認めるのは、怖い)
そうやってぐるぐると考えていたら、身体が冷えてしまっていたのか強く風が吹いて小さく震える。そろそろ戻ろうかな、なんて思った時
「ん…あれ?」
誰も居ないはずの静かな森の中で、ひっそりとした微かな気配を感じ取る。あまりにも微かだったから初めは気のせいかとも思い、気にせずに屋敷へと戻ろうとした。
「…っ」
「!」
でも耳に届いたその音に屋敷へと戻りかけた体を止める。
「今の…!」
人よりも音に敏感になったわたしだ。聞き間違いなんかじゃない。勘違いだったらそれでいい。
(今の、カルトちゃんの声だ!)
なんだかいつもと気配が違うような気がして。なるべく音を立てないように気配がした方へと急ぐ。少し進んだところで茂みの向こう側にカルトちゃんの赤い着物が見えた。
「カルトちゃん!」
「!」
びくり、とその小さな体が揺れていつもと違う様子に慌てて近寄る。
「どうしたの?!もしかしてまだ具合悪いの?」
「……丸一日、目を覚まさなかった人に言われたくないです」
「わたしは平気!そんなことよりカルトちゃん…」
「別に、なんでもありません」
「…泣いて、たの?」
目元が少し赤くなっているような気がしてそう聞けば、カルトちゃんは何も答えずに口を閉ざした。