くろあか | ナノ

 三十五話 お節介



「(はー…不自然じゃなかったかな…)」

勢いで「シャル」なんて呼んじゃったけど…シャルと別れてバイト先へと向かう途中でついさっきのことを思い出して後悔していた。

できる限り自然に、それとなく呼び捨てしてみたけど…ううう…向こうは敬語じゃなくていい、って言ってくれたけどそれでも申し訳ないな、という気持ちは拭えない。

「(でも、ちょっと、嬉しかったり…)」

友だち、みたいな関係が嬉しい。この世界でできた初めての友だち。歳もたぶんそんなに離れてないし話も合うし、一緒に居て楽しかった。

でもずっとこの街で暮らす訳じゃない。仕事が終わればこの街からも離れるだろうしそうしたらシャルとは会えなくなる…。

「(しょうがないけど、やだな)」

折角仲良くなれそうだったのに…。そう少しだけ寂しくなりながら喫茶店へと向かった。

お店は結構隠れたところにあって大通りを曲がって小さな細い路地に入る。少し駅からも離れているので知る人ぞ知る、という感じだ。お昼が終わって、3時のティータイムが終わって晩ごはんまでのこの時間はいつも暇だ。

だから少しだけ顔を出してこのあとのシフトをモアさんに伝えようかなーと思っていた。次の仕事は10日後ぐらいだったのでそれまでは修行しながらバイトしてのんびり過ごすつもりだった。

路地を曲がって少し進むと目の前に喫茶店が見えてくる。なんだかんだバイトもモアさんに会うのも楽しみの一つになっているので喫茶店へと向かう足が少しだけ早くなる。

―カランカラン、

入口の扉を開けると鈴が鳴る。暖房の暖かい空気が冷えた身体を包んで紅茶とコーヒーの香りが香る。いつもだったらすぐにカウンターへと向かうのに今日はそれができなかった。

「(やばい…)」

店内には一人しかお客がいなかった。カウンター席に座っている。男の人。少しくすんだ短い金髪で、背中をみただけでもわかるくらいがたいがいい。

「(やばい…)」

入口で身体が固まる。冷や汗が背中を伝った。あの男の人、やばい。念能力者だ。しかも、強い。後ろ姿を見ただけなのにわかる。隠してはいるけどオーラが異常だ。やばい。

「(どうしよう…)」

別に敵意はないようだし、そのままスルーすればいいとは思う。変に絶なんてしてバレたらまずい。一般人を装ったままの方がいいよね。どうしよう…と考えながら躊躇う。

「ゆあ」
「…っはい!」
「そんなとこに居ないでこっち来たら?」
「モアさん…こんばんは」
「ん」
「お、あれが噂のバイトか」
「そうだよ。だからそのオーラ抑えな」
「はいはい」
「(あ、オーラ消えた…)」

モアさんに呼ばれて緊張が溶ける。男の人もモアさんに言われてオーラを消した。絶だ。すごく綺麗な。きっと強いんだろうな…あの人。ヒソカさんと…どっちが強いかなあ。

そんなことを考えながらそっとカウンターへと近づく。男の人と目が合った。

「(眉毛、ない!目付き悪い怖い!)」
「…ふーん」
「なっ、なんですか…?」
「いや、別に」
「……モアさん」
「私の客だよ。すぐ帰らせるから気にしないの」
「おい、ひでーな」

意味ありげに眺められた。なに?今の…なんなの?怖い…!絶対この人、裏の人間だ!マフィア!絶対!見た目がそれを語ってるもん!!そそくさとカウンターの中へ入る。モアさんー!と泣きつくとうっとおしい、と一蹴された。ひどい…。

「バイトのシフトなんですけど…」
「ああ、はいはい」
「今週はほとんど出れます」
「りょーかい」

来週は…なんてモアさんにシフトを告げる。その間も視線が刺さってきて痛い。ちら、と見ると男の人がじーっと見ていた。だから怖いよ!なんなの?わたし、何もしてないのに!

「お前なんか格闘技やってるか?」
「…なんでわかるんですか?」
「わかる。そいつの立ち方とかを見れば大体」
「(この人やっぱり強いんだろうな…)」

立ち方見ただけで格闘技を習ってるとかそこまでわかっちゃうとか…すごいなあ。別にそこは隠さなくてもいいかな?少しだけ考えたけど、まあいいかと思って正直に話す。

「やってますよ。護身術として親に叩き込まれました。」
「へえ?」
「そこまで強くないですけどね…」
「ふうん」

また意味ありげに眺められる。…これセクハラとかで訴えられないかな。上から下までじっと見られるからなんかやっぱり気分はよくないわけで。少しだけ機嫌が悪くなる。…こういう子供っぽいところも直さないとー。と同時に反省した。

「ていうか今日はシャルの奴来てねーの?」
「来てないね」
「へ?シャルナークさんと知り合いなんですか?」
「おう。仕事仲間だな」

急にシャルの名前が出てきて驚く。仕事仲間…やっぱり裏の人間だよね。納得。

「シャルナークさんなら、さっきまで一緒にお茶してましたよ?」
「お茶?」
「はい。ケーキ屋さんに連れて行ってもらいました!」
「…ゆあ何もされなかった?」
「え、え…?」
「アイツ、手ぇ早いからな」

モアさんが真剣な顔で言ってきて手が早いとか…そんなことなかったけどなあ。別に普通にケーキ食べて、おしゃべりして…ていうかわたしなんか相手にされるわけないし…。

「普通に楽しくおしゃべりしました」
「……そう」
「へーまあお前みたいなガキ相手にしないか」
「むっ」
                      
自分で思う分には別にいいけどでも、なんか人に言われるとむかつく。子供っぽく見られるのいやなのに。気にしてるのに。意識してるのに。

「ガキじゃないです」
「オレからみたらガキだよ」
「…じゃああなたはおじさんですね」
「ああん?」
「なんですか?」
「やんのか?」
「こんな小さな事でケンカするほど子供じゃないですから」
「…お前、いいな。気に入った」
「……どうも」

別に嬉しくないけど。という言葉は声にせずに飲み込んだ。今のどこに気に入る要素があったのかな?わたしはちょっと嫌いになった。…別にガキって言われたからじゃないよ?

「ま、ここに居ねーんだったら帰るわ」
「もう来なくていいよ」
「(モアさんに同意…)」
「オレ客だよなあ…?」
「情報を渡し終わったらもう客じゃない」
「ひでーなぁ」
「お帰りはあちらです」

モアさんに便乗して入口を指差す。はいはい帰ればいいんだろ、とお金を机に置いて立ち上がる。

「ま、今日の目的は済んだしな」
「……なんでこっち見るんですか?」
「いや?別に」
「………」

にや、と笑われた。…やっぱりこの人好きじゃないかも。ぷい、とわざとらしく顔をそらした。嫌われたなーと笑ってるけどそれもスルーする。シャルの仕事仲間でも、嫌いは嫌い。

―カランカラン

と入口の鈴が鳴ったのを聞いてから
はあ、とため息をついた。

「モアさんのお客さんって、変な人多いんですね」
「そうね(アンタの周りの方が…)」
「あの人嫌いです…」
「…まあ、職業柄ね。ああいうのも来るからね」
「うーシャルはいい人なのに」
「…いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「今日ですよー歳も近いしってことで」
「そう。…まあ、いいけど」
「?」

少し含みのある言葉が気にかかる。でもモアさんはそれ以上は何も言わなかった。気になったけどまあ、いいか。と思って考えるのをやめた。

今日、このまま働いていこうかと思ったけど夕飯の支度をしてないのを思い出して諦める。確か今日はヒソカさん帰ってくるの早かった気がするからなあ…。

「じゃあ、モアさん。また明日来ますね」
「ん。よろしく〜」

ひらひら、と手を振るモアさん。ぺこり。とお辞儀をして喫茶店をあとにした。今日も寒いから、お鍋にしようかなー。寒かったのでマフラーを巻いて歩き出した。


ゆあが帰ったあとお客が誰もいなくなった喫茶店でモアは、はあ…とため息をついた。

「ほんと、変なのに好かれる娘…」

変なのとはもちろん今の男のことだ。情報を提供する前に、依頼主を調べる。それが自分のやり方だ。

調べてみたけどあの男幻影旅団の一員だった。シャルナークもそうだし、ほんとゆあの周りにはろくな人がいない。ヒソカも、イルミもだ。

「それなのに、仲良くなったりするし…」

念能力者なら、あいつらが異常だってわかるはずなのにゆあは警戒しない。だからこそ好かれるし、気に入られる。本人が無自覚なのが、ほんとタチ悪い。

「全く…お節介も大概にしないとね」

そう誰にもなく一人呟いた。



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