わんわんとひとしきり泣いた後何とも薄情なことに、オラの瞳から涙さ止まっていた。未だにぐすぐすと鼻さ鳴らしてるけど、もうオラの目が熱くなることはなかった。

暫く一人ぼーっと突っ立っていれば、不意に血の匂いさかい潜って、嗅ぎなれた独特の甘い匂いがオラの鼻さ掠めた。湿った温い空気が肌に触れて、土の匂いがふわりと辺りに立ち込める。気付いた時には鼻の先っちょに冷たいものがぽたりと落ちた。

雨だ、と勢いよく顔を上げれば、広がる曇天。お天道様を隠すように広がり、暗く灰色になった空。それがなんだか今のオラの気持ちさそのまんまお空さ移ったように思えた。だからかは分かんねえけど、いつの間にかオラは空を見上げたまんま無意識のうちに口さ開いてた。


「…空が、泣いてる」


オラの涙が止まっちまった変わりに、とでも言うかのようにぽたり、ぽたりと地面さ濡らしてく雨粒。それはまるで悲惨なこの場所さ慰めるように柔らかく感じた。冷てえ筈の雨なのに、何でだか暖かい気がして堪んなかった。春雨のように柔らかな心地さ好いこの雨に体さ預けたくなった。

暫く呆然とただ何をする訳でもなく、オラは灰色の空さ見詰め続けた。びしょびしょになったオラの髪はすっかり落ち込み、暫くしてから漸くオラは不意に先程まで暖かいと感じていた雨さ寒く感じた。雨粒がまた肌にぱたりとあたり、ぶるりと寒さを感じた。

一度寒いと思うとなかなか、またもう一度その雨さあったけえとは思えなくなっちまって、オラは寒さに身を強張らせた。くしゅりと小さくくしゃみしてから、オラは雨宿り出来そうな場所を探し、村の奥へと足さ進めて行った。酷くなる雨粒はオラの冷え切っちまった体からもまだまだ容赦なく体温を奪ってく。がちがちと震える体からは感覚がなくなっていった。

冷めたくなってく自分の体に怖くなっていれば辛うじで家だと解りそうな、まだ形の残ってる家を見付けた。早くしなければ、今にも衰弱しちまいそうな体を力いっぱい動かしてオラは一気に走りだす。駆け出した勢いは思うようには止まらず、オラは広場のような場所に一気に飛び出す形になった。


「……子、供…?」


ふと、小さく声が聞こえた。オラはその声に反応して、迷わず声のした方を見る。その先にいたのは人だった。だけどオラはその人さ見て思わず目を見開いた。

今までオラが見たことなんてない着物に、片目は前髪で隠れちまってるけど、まるで海みてえにきれいな青い瞳。それさ縁取るように伸びた長え睫毛は少し赤み掛かっていて一層神秘的に見えた。雪みたいに真っ白な肌に栄える、深紅の長い髪は今のオラにとって、血のようで少し怖かった。でも、そんなこと関係ないくらい女の人は綺麗で思わず見惚れてしまった。

とってもきれいな人だけど見れば見る程オラにとって女の人は不思議だった。オラも人のことさ言えねえけど、この女の人はまるで日ノ本の人間には見えなかった。女ななのに高え背丈や、青い瞳。それらの容姿はまさに最近聞いたばっかりの南蛮人そのもんだった。

暫くいろんな思いをこめてじっと女の人に魅入っていれば、女の人はオラに向かって小さく手招きした。その小さな手招きは明らかに不自然で、オラは不信感を抱かずにはいられなかった。だけど、オラはこの寒さじゃ正直辛い。一刻も早く雨粒から身を防ぎたかったオラは、少し警戒しながら一歩、また一歩と足を進めた。


まるで現のよう
踏み出したのは現実だけど




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