最期に笑いながら皆で畑さ耕したのはいつだったか。そう考えれば考える程、オラはただ辛くなった。苦しくて、悲しくて。そんな暖けえ時間はずっと前になくなっちまったっていうのに、何度も何度もそんなことさオラ自身に問い続ける。それがあんまりにも虚しくて、思わず泣きそうになった。

少し前、オラ達の村と仲さ良かった隣の村が潰れちまった。でもオラは知ってる、潰れたんじゃねえ、潰されたんだと。それも偉いお侍さん達が、畠山の手によって潰した。たった一人の命令で、全てが一瞬でなくなっちまった。皆で汗みず流して耕した畑も、一年通して作った米も。全部、ぜんぶなくなっちまった。物事全部がものすごく速く駆けてったのを覚えてる。

容赦なく斬り殺されてく若い衆に、虐殺された女子供や虐げられる年寄り。終いには火が村さ広がって全部めらめらと燃えてった。ぼうっと燃え上がり、生きたまんま焼かれてく村人の声はオラの村にいても聞こえた。あんまりにもひどいあの日のことがオラは頭から離れなかった。ずっと、ずっと悲鳴がオラに助けを求めてる気がして。

あの日命からがらオラ達の村境まで泣きながら逃げて来た村人をオラ達は見捨てた。あん時、助けることなんていくらでも出来たのに。だけどオラ達はそれをしなかった。怖いから。ここでこん人さ助けたことでオラ達が殺されんのはごめんだった。だから知らんぷりして村への入んのを許すことなく、放っていた。大人達さ決めたことだったからオラには何も出来ず、ただそれを見ることしか出来なかった。

結局そいつはオラ達の目の前で斬り殺された。あん時最後に見た懇願と憎しみの混じった瞳は、死んだ後もずっとこっちさ向いてる気がしてオラはすぐに目を背けた。それからだ。なぜだかいつもあの目が付き纏ってるような気さして、オラは怖くなった。

目を閉じれば走り逃げる足音が後さ付けてくる。助けと恨みの込もった声さ頭の中に響いてくる。何度も何度も恨みがましくオラに訴えてくるそれにオラはいつしか耳を塞いだ。勿論意味のないことだと分かってても、でもそうせずにはいられなかった。

だって何度謝っても、何度やめてと言っても消えてくれない。そんなものから逃げる方法なんてオラは知らなかった。だから無意味だって分かってても、こうでもしなきゃ怖くて可笑しくなっちまいそうだった。

多分、きっとこの先いくら謝ってもオラの言葉が聴き入られることさねえ。それは何となく分かってた。これからずっとオラにはこの恐怖さ付き纏ってくる。オラが死ぬその時まで後ろでずっと控えてる。

でも仕方ねえ。これはオラへの罰だ。何もしねえでただ黙って、命が朽ちていくのを見てた。畠山の横暴な権力に怯えて、怒りの火の粉さ降り懸かるのを恐れて、何も正さなかった裏切り者への一生消えることさない罰。悪いことさしたら必ず自分に回ってくるって、その通りだ。今更後悔したって遅いって、意味がないって分かってる。

でも、今。後悔してる自分がいる。罰に怯える自分がいる。今更だなんて痛えぐらい分かってる。けど、あれから長えこと時間さ経ってるのに、あん時のそんな自分の不甲斐なさが忘れられずにいる。ほんの少し前の自分の非力さに堪えられなくなった。もう二度とこんなことさしちゃいけない。罪悪感から生まれたオラの決意は生半可なもんじゃなかった。

あの日隣の村が潰されちまった理由は、理不尽な年貢の取り立てに対する不満から起きた一揆に負けたから。そんな簡単な理由で一つの村が一晩でなくなっちまった。敗者に待つのは死のみ、なら勝てばいいんだ。いつからかオラは強さを求めた。

だからオラは努力した。努力して努力して神様からも力さ頂いた。今までじゃ考えらんねえ程の力を。そしてオラは、気付いた時には一揆衆さ束ねる長になっていた。


確かに存在した
幸せなあの日々




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -