足を止め、互いに自身の視界に現れた人物を無遠慮に凝視する。両者共に固まったまま、微動だにせず見詰め合う。こんな光景、第三者から見たら何とも滑稽だろう。私はよくよくその子供を観察するように眺める。見れば、子供は少女だった。ぱっと見、十歳前後のような気がする少女は子供特有のあどけなさが目立つ可愛らしい顔立ちをしている。クロームより小さくフゥ太より大きい背丈。やだ、可愛い。

だがちょっと待て。私の推測が正しければ此処は日本の筈。彼女の容姿を見る限り、かなり日本人離れしていることが分かる。私もオッドアイな訳で人のことを言えたもんじゃないが、残念なことにどう見ても彼女は日本人に見えない。

はっきりと言うなれば異質な容姿。白銀色の髪に金色の瞳。そして雪のように真っ白な肌。私はイタリアンな訳で肌が白いのは当たり前だが、此処まで白い日本人がいただろうか。いや、いなかった。確かにハルさんや京子さん。クロームのような色白なら沢山いた。でも、やはりどんなに白くても日本人特有の淡い橙色が必ずあった。

しかしこの目の前にいる少女はどうだろう。寒さもある為か頬の赤みも一層際立って見えるそれはやはり白。東洋人には見えず、陶器のような白い肌はまるでフランス人形のようだ。


「………………」


まじまじと少女を見詰める私と、窺うように私を見詰める彼女。その時、彼女の爛々と輝く金色と私のオッドアイが重なった。その途端、彼女との間に生じた空間はまるで時が止まってしまっているような気がした。

ふと、忘れていたが雨が降っていることを思い出す。そして気付く。私は屋根の下、少女は空の下。雨に体を打たれている。私の存在に呆然としてしまっているらしく少女も全く動こうとしない。まあ、それを気にした様子も見られないが。
しっとりと濡れていく彼女の体に降りしきる雨はぱらぱらどころではなく、ザーザーという擬音がつきそうな程の勢いで大地に降り注いでいく。つまりはひどかった。

しゃがむ私と雨に濡れる彼女との距離はおよそ15メートル。正直物凄く迷ったが、生憎私は可愛いものに目がない。あんなにも可愛らしい少女が目の前に居て、放っておけるだろうか。否、無理だ。そんな私がとった行動というのは一つ。


「おいで」


彼女に聞こえる程度の声で招く。どうやら彼女は私を見ていたに変わりないらしいが、どうも心此処にあらずだったようだ。声に反応し、弾かれた様にをこちらを見た。

それにより、必然的に再び彼女と視線が重なった。それを確認した私は彼女の大きな瞳をしっかりと捕らえ怖がらせないよう、小さく微笑んでみた。少しずつだが彼女の無意識的に行っているであろう瞳から伝わる警戒が揺らいでいくのが分かった。それを見て、私は座ったまま小さく手招きする。

忘れているかもしれないが、かなり深手な傷を負っている私は傷みで腕が上がらない。だから必然的に小さくなった動き。それを見て一瞬不審そうに眉を潜めた彼女だったが、少し腕を動かした拍子に制服に広がった血を見て目を見開いた。だがそんなことには構わず、私は引き続き言葉を紡いだ。


「そこにいては寒いでしょう?」


風邪を引いてしまいます、と続けようとしたけどやめた。いや、だって今彼女の体は濡れてしまっているし今更意味がない。だが、放っておく訳にもいかず引き続きおいで、おいでと笑いながら手招きを繰り返す。そんな私の行動に目を見開いていた少女が今度は頬を染めた。

その行動は大変可愛らしいのだが、何故だ。何故彼女は頬を染めたのだろう。…クハン。まさか彼女、私の美貌に惚れちゃいました?なーんてね。自分でもどん引く思考に思わず失笑。いくら自分の容姿が整っていると自覚していても、これは流石に酷いぞ私。

これじゃまるで、ナルシストの更に斜め上を行く勘違い野郎ではないか。女だけど。そんなことを考えながら少女を見れば直ぐに目を反らされた。
…子供の思考ってよく分からない。いや、まさか私顔に出てた?顔にこの痛すぎたナルシズム思考が出てたからなのか。暫くするとはじめは何だか物凄い戸惑ってたみたいだったが、何やら腹括ったらしい少女は私の方へととことこやってきた。


「私の隣でよければ、どうぞ」


目の前まで来た少女に不安げに見詰められて私はちょっとばかし困った。何か会話を、と思った私の口から咄嗟に出たのがこれ。…うーん、まぁ中々いい切り出しではないか。ナイス、私。

言ってしまったことは取り消すことなど出来ないので、私は自分の横を少し空け手で促すように誘導した。依然、互いの視線は絡み合ったまま。そんな私に少女は恐る恐る、と言った様子で近付いてくる。

視線が外れたかと思えば、少女はこちらを見ることなく私の横に立つとそのまますとんと地面へと腰掛けた。なんだかその動作も可愛らしい。私はそれを確認するとそのまま視線を少女から再び前へと向ける。互いに一言も話さずただぼう…、と雨を見詰める。

ただ、その空間に不思議と気まずさなどはなく、寧ろなんだか心地よい気さえした。きっと少女も同じだと思った。


傷を隠し平静を装う
彼女は不思議な娘




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