歩みを進め始めた私は脳内で自身の分かっていないこと。疑問を整理し始めた。先ず、今現在。私は此処が日本国内なのかさえ分からない状況だった。一瞬、農業地帯や日本国外という考えが出たが、どうも此処は英国や故郷であるイタリアの景色とはどこか違う気がする。妙に引っ掛かる違和感に唸り、あたりを見回せば随分決定的なヒントを発見した。

私が目を付けたのは道に沢山ある草花や木。これの種類なんかによってだいたい国の予想がつくのではないかと考えたのだ。もし検討がつかなかったとしても東洋か西洋か位はわかるだろう。我ながら随分ポジティブだと思いながら、おもむろに目を真横に広がる森林へと向ける。すると視線を向けた先に私を待っていた木はどれも日本で馴染みの深い木だった。となれば少なからず答えに一歩近付いたのが分かる。


「銀杏…?それに、桜も」


いや、待て待て待て。これでは特にヒントになってないのではと思った。何故なら今此処にある木はどれも世界的に有名であり今ならどこにでもありそうな木々ばかり。一瞬にして掴みかけていた希望が遠ざかった。ああ、嫌な予感しかしないのは何故だろうか。物凄い悪寒がして、思わずぶるりと体が震える。一発で全身に鳥肌が立っていることが分かった。

拭い切れない不安と冷や汗をそのままに私は無言で歩き出した。きっと今の私は相当顔色が悪いに違いない。もしこういう時、学校なんかにいたら有無言わさず早退パターンだ。何故それが、この助けも何もない今なのだろうか。いろいろと思うところはあった。なら何故こんなにも体が優れないにも関わらず、何故私がひたすら歩みを進めているのか。そんなの簡単なことだった。

さっきも言ったが今の私は見知らぬ土地にたった一人きり。つまりは助けもいなければ、頼る人もいない完全な孤独だった。そりゃ、少しばかり寂しいいう思いもあったが、今私をこんなにも突き動かしているのは自身の置かれた状況が非常にまずく、不安を感じずにはいられないからだ。そんな寂しいとか可愛いこと言ってられない。

死ぬほど痛い重傷。怪我から来る風邪のような症状。手当てするにも道具がなければ技術もない。はっきり言って手の施しようがないのだ。今回ばかりは流石の私でも乗り切れない。

あのままあの場に留まった所で、人が通る確率は綱吉君の髪が重力に従う程低い。それにもし、遭遇するとすればこんな場所だ
熊や賊。トトロが出ても可笑しくない。トトロにはちょっぴり会いたいがそれ以外の招かれざる客にこられてしまっても困る。というよりそれ以外の確率が高すぎる。

そこで私は一番確実っぽい人里を目指す、という選択をとったのだ。とぼとぼと微弱ながらも感じる気配を辿って歩みを進める私は今、かなり不機嫌な顔をしているに違いない。何故ならば何時ものように笑みを作れない。それに眉間に皺も寄っている筈。これは治った訳ではない、じくじくと熱くなる傷が尋常じゃないくらい痛み、胃の中がぐるぐるとして吐き気がするからだ。

ふと目線を下に落とせばぽたりと土に滲んだ赤い滴。まさかと思い歩いて来た道のりを振り返れば点々と残る赤い滲み。最悪だ、なんて出血だろうか。ぱたぱたと歩く度に地面へと道標をつくる私はまるで、行く先々でどんぐりを落としていく中トトロ。…なんともえぐい。がそんな悠長にしていられない。治るどころかまさかの悪化に少なからず私は動揺していた。

そのまま私は少しだけ自身を見ることにした。目に入ったのは先程も目にした制服。ちょっとショックだが後々なんとかすることにした。冷静に考えれば制服は最悪幻術で何とかなる。

だが問題は髪。自慢だったこの艶のある紅の髪には制服同様赤い血が付着してしまっている。しかも血が乾きこびりついてしまっている所もあり、非常に残念なことになっている。折角毎日欠かさず綺麗に手入れしていたのに血を吸って傷んでおり、少しぱさぱさとした自分の髪。手を持って行けばその残念な触り心地に思わず溜め息をついた。


「…此処は、何処なんでしょう」


歩いても歩いても一向に変わらぬ景色に飽きが来て嫌気がさす。地面は土、横は森
見ず知らずの土地では全く検討がつかない。そんな私は若干苛々としてきていた。何でもいいから早く何処か休める場所に行きたい。体も限界が来ていたのだと思う。

神妙な顔付きのまま考えていると不意に変わった風景。辺り一面、緑から白へと一気に変わったのだ。


「……なっ…、」


思わず足を止め目を見開く。全く面白くもないハイキングに飽きて、気怠く半目になっていたであろう私の瞳は今、これでもかと言う程見開かれている筈である。いや、だって見てみろよこれを。こんなのを見て全く反応を示さないなんて無理だ。そんな奴いたら出て来い。拝んでやる。というより、此処…


窪んだ眼窩が訴える
ごろりと転がるそれ




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